第22章 花いちもんめ✔
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花街(はなまち)とは、芸者屋や遊女屋が集う地域を指す名称である。
芝居や芸能の娯楽も多々あるが、女が身売りする遊郭も同時に存在する。
その中で有名なものに吉原遊廓というものがあり、政府公認の娯楽となっている。
その他、多くの土地に散らばる花街の遊郭は、政府非公認のものがほとんどだ。
"月房屋(つきふさや)"もまた、その一つだった。
「ううん。絶景、絶景♪」
夜道を明るく導く、派手な行灯の数々。
照らされるは、客寄せの為に肌を露出させる衣装に身を包んだ遊女達。
「さぁて、」
食欲をそそる若い肌を屋根の上から見下ろしながら、男はちゅるりと舌舐めずりをした。
「俺好みの女の子はいるかなあ?」
ガタタン、ゴトトンと車輪が呻る。
早朝の優しい日差しの中、千寿郎はそわそわと窓の外を眺めていた。
「千くん、もしかして列車に乗るの初めて?」
どことなく親近感を覚えるのは、自分にも同じような経験があったからだ。
それでもきちんと車両の座席に座ったまま、蛍のように身を乗り出していないところは育ちの良さを感じさせる。
隣に並んで座る蛍が問いかければ、照れた様子で千寿郎ははにかんだ。
「いえ、初めてではないんですが。乗るのは久しぶりで」
「そうなんだ。前も杏寿郎と?」
「父と母も一緒でした。家族皆で」
「それって…」
「幼い頃のことなので、よく憶えていないんですが」
苦笑混じりに伝える千寿郎に、向かいに座っていた杏寿郎は腕組みの姿勢のまま目を細めた。
杏寿郎の記憶にもある、家族四人で出かけた最後の思い出だ。
「だがこれは旅行ではないぞ、千寿郎」
「! はい、心得ていますっ」
静かに釘を刺す杏寿郎に、ぴんと千寿郎の背筋が伸びる。
蛍との初任務では、目的地に着くまでは好きに楽しんでいいと告げていた杏寿郎だ。
しかし今は、その顔に活気ある笑顔を浮かべてはいない。
それもそのはずだと、蛍は無意識に肩を下げた。
(杏寿郎、反対してたもんね…)
それはつい昨夜の出来事にある。