第22章 花いちもんめ✔
「そんな大層なことは…記憶を覗いていただけだし…」
「それが大層なことなんだ。人間相手でもない、作られた物体から記憶を拾うなどと。少なくとも俺は、そんなことができる鬼と出くわしたことはない」
真っ直ぐな言葉を向けてくる杏寿郎に、偽りはない。
その思いに蛍は唇を結ぶと、握っていた風鈴をそっと冊子の上に置いた。
「多分、このおうちのものだからだと思う」
「煉獄家のか?」
「初めてだったから。誰かのことを、こんなにも知りたいって思ったのは。初めて杏寿郎の家族写真を見た時、もっと知りたいって思ったの。杏寿郎の、幼い頃のこと」
知りたい。
見たい。
聞きたい。
それは、杏寿郎が昼間見せた思いときっと同じものだ。
「この写真にも、風鈴にも、残っている記憶はとても温かいものばかりだった。何日だって見ていたいって思えるくらい。……ごめんね」
「? 何故謝る」
「杏寿郎や千くんや槇寿郎さんにとって大切な思い出を、好き勝手に覗いたりして…」
例えそれが温かな記憶でも、本来なら他人が関与していいものではない。
好き勝手に覗いてもいいものではないのだと、蛍は頭を下げた。
「鍛錬の為に写真を使えと提示したのは俺だ。俺自身が、それでいいと許したんだ。蛍が謝る必要はない」
「……」
「蛍?」
「…杏寿郎は…怖くないの?」
迷うように揺れる瞳が、杏寿郎を見上げる。
「自分を曝け出すこと」
蚊の鳴くような小さな声で問う。
杏寿郎にだけでなく、自分自身にも向けるかのような問いだった。
「そうだな…怖いという感情とはまた違うが…他人に自分を曝すことに抵抗がないと言えば嘘になる。しかし生憎、蛍にはその抵抗はないらしい」
「なんで?」
「それ以上に、嬉しいからな」
「過去を知られることが?」
いや、と一度頸を横に振って。
杏寿郎は、柔い声で思いを紡いだ。
「俺の人生に、蛍が関わってくれることが」