第22章 花いちもんめ✔
「これ以上の影鬼の使用は中断させるべきかどうか。判断の為にも、蛍の様子を見せてくれ」
「蛍の為だ」と告げて、真っ直ぐに土佐錦魚を見る。
魚眼は顔の左右に付いている為、真正面からは視線は重ならない。
なのに何故か、じっと無機質なその目に見られているような気がした。
最初に動いたのは土佐錦魚だった。
徐に顔をふいと背けると、ゆたりと流れるように泳いでいく。
まるで道を譲るような仕草に、杏寿郎はほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとう」
どうやら意思は伝わったようだ。
「政宗は待機していてくれ。念の為に」
肩の鴉に告げれば、返事もなく羽搏き距離を取る。
未だに目にした蛍は動く素振りがない。
境界線もわからない真っ黒な空間の中、唯一はっきりとわかる蛍の姿から目を逸らさずに、杏寿郎は踏み込んだ。
ひたりと、音もなく足が影の地へと触れる。
「!?」
刹那、視界にぶわりと沢山の気泡が現れた。
何処から現れたのか。
それは元から其処に存在していたかのように上下左右、杏寿郎の視界を覆い尽くし浮かんでいる。
一つ一つが、人が入れそうな程の巨大な気泡。
まるでシャボン玉のように、反射する薄い膜の中には幾つも鮮やかな光景が浮かんでいた。
(これは──過去の、)
そのどれもに見覚えがあった。
見覚えがあって当然だった。
初めて千寿郎を弟として迎え入れた日。
初めて家族全員で神幸祭に出かけた日。
初めて母の腕に抱かれた日。
初めて父の手に頭を撫でられた日。
幾つもの映像はどれも杏寿郎の知っている過去のもので、眩い程の光に包まれていた。
どれもが眩い光景で、どれもが温かい記憶だった。
思わずその場に立ち尽くし、辺りを見渡す。
一つ一つの映像を追っていけば、最後は一層光の強い所へと辿り着いた。
──ちりん
懐かしい音を聴いた。
最初に見た時と変わらず座したままの蛍が、何かを抱えるように抱きしめている。
細い両腕に抱えられた薄いガラス玉のような光の中には、揺れる小さな風鈴の映像が、一つ。