第22章 花いちもんめ✔
じっと風鈴を見つめていれば、頸を傾げる千寿郎の視線に気付く。
大切に風鈴を両手で握って、蛍は笑顔を向けた。
「千くんに触れているとね、心がぽかぽかするの。優しくて、あったかい気持ちになれる。杏寿郎や槇寿郎さんだってそう。感じ方は、少し違うけれど…皆の思い出に触れていれば、今の気持ちも浮上しそうだから」
「壊さないように気を付けるよ」と付け足せば、千寿郎は大丈夫だと笑顔で頷いた。
「姉上の力になれるなら」
「! ありがとうっ」
無茶を言った自覚はあったからこそ、お礼の声も大きくなる。
写真も風鈴も、全てに煉獄家の歴史となる思い出が詰まっている。
どれも大切なものだ。
「それでは私も、庭で掃除をしていますので。何かあったら呼んでくださいね」
「うん。政宗が監視してくれてるから、大丈夫だとは思うけど…千くんも、鍛錬中は中に入ってきちゃ駄目だよ。危険だから」
「わかりました。兄上にも言い付けられているので、気を付けます」
では、と一度頭を下げて、振り返りながらその場を後にする。
そんな千寿郎を笑顔で見送ると、蛍は道場の唯一の出入口である戸をきっちりと締めきった。
窓に太陽光を遮断するものはないが、広い道場には日陰となる場所もできる。
そこに借りた冊子と風鈴を並べると、足を揃えて正座した。
窓際では、離れて様子を見ていた政宗がいつの間にか待機をしている。
準備は整った。
「…よし」
千寿郎に告げた通り、彼の優しさに触れると心が温かくなるのは本当だ。
短い時間だったが、千寿郎と交わした言葉の数々のお陰で、不安定だった心も一度落ち着いた。
(杏寿郎にも言った通り、私は私がすべきことをしないと)
両手を膝の上で揃えると、静かに目を瞑る。
いつもは目の前で凛と真っ直ぐな視線を向けてきていた、我が師を思い出して。
(──集中)
そわりと、座した膝下の影が揺らいだ。