第22章 花いちもんめ✔
即座に言葉は出なかった。
それが鬼という生き物だから、と言えば全てが片付くことだ。
しかし困惑の中で主張する目の前の彼女こそが、人と同じに認めた鬼だからこそ。
それが鬼だと告げてしまえば、蛍の頸も刎ねなければならない。
「…ごめん」
口を開いたのは蛍が先だった。
歯を食い縛り、苦々しくも言葉を紡ぐ。
「鬼と、人は違うのに…ごめんなさい」
「っ…蛍、」
「わかってる。あの男を見つけたら、人の手で罰してもらう」
「そうじゃない」
「男の出所? それなら、月房屋という名前の店を探してみれば見つかるかもしれない。男の名前は与助。苗字は知らないの、名前を呼ばれているところしか聞いたことがなくて」
「違う。今俺が話したいのは──」
早口に男の情報を並べ立てる蛍が、部屋の隅へと後退る。
その姿を追いかけて腕を掴んだ。
今気にしているのは、与助という男のことではない。
蛍のことだ。
「なに?」
腕を掴まれ見上げる蛍の体が、強張る。
「男の情報なら、話すよ。でもそれ以外のことなら…今は、話したく、ない」
振り払うことはしない。
それでも強張らせたままの体が、拒絶の意を示していた。
そんな蛍を前にして、杏寿郎も押すことも引くこともできず。重い空気が伸し掛かる。
「…言われた通り、昼間は血鬼術の鍛錬をするから。稽古場、借りるね」
切り替えるように、控え目な声で告げる蛍の視線が足元へと下がる。
「ならば俺も」
「監視なら政宗がいるから大丈夫。杏寿郎にもやることがあるでしょう」
行動が制限される日中は、血鬼術の鍛錬に勤しむことを前以て蛍には約束させていた。
一度己の術に吞まれた蛍を叩き起こした政宗を傍に待機させることと、その間杏寿郎は町中へ今一度足を運ぶことも。
己の目で、足で、今一度与助を捜そうと考えていた。
鴉ではなく自身の目なら、見つけられるかもしれない。
「私も、私が今すべきことを、します。だから師範も」
「……」
継子として頭を下げる蛍に、それ以上踏み入ることはできなかった。