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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 後(のち)に実姉を殺した真相は、蛍が炭治郎に語ったものと、蛍自身の口から聞くことで知ることができた。
 鬼と化した心で、蛍は姉を喰らったのではない。
 耐え切れない程の哀しみと絶望の中で、姉の想いごと喰らったのだ。

 しかし惨殺した男達は違う。


(…だから、蛍は)


 姉を殺すだけでなく、その体を毒漬けにして長い間苦しめた。
 献身的に世話を続ける蛍も欺き、体だけではなく心も弄んだ。

 未だにその憎悪は、蛍の中で鮮明に残っているのだ。

 男達を目も当てられない程の姿に惨殺したことも、顔を見ただけで血鬼術を暴走させる程に殺意を膨らませたことも、全てはそこに尽きる。


「姉さんは死んだのに…なんであの男だけのうのうと生きて…っ」


 蛍の声が感情を昂らせる。
 腕を掴む手が、鋭い爪を見せた。


「だから殺そうと?」

「──っ」


 相反して冷静に問いかける杏寿郎に、はっと蛍の顔が上がる。
 ようやく見えた赤い瞳の奥には、見知った感情が渦巻いていた。

 鬼と対峙した時に見る眼(まなこ)だ。
 向かい来る相手を殺そうと、喰らおうとする。


(これでは蛍と会わせる訳にはいかない)


 与助の話をしただけで、鬼化の兆候が見えている。
 こんな状態では、また同じことの繰り返しだ。

 与助が蛍の姉にしたことは人として許されないことだ。
 だからと蛍の手で殺されるところを、黙って見過ごす訳にもいかない。


「あの男は、人の法にて然るべき処分を受けなければならない者だ。見つけて捕える義務はある。しかし殺してはならない」

「……わかってる」

「そうか…ならばよかった。やはりあの男は早急に見つけ出さねば」

「わかってる、けど」


 鋭い爪を持つ手を強く握りしめたまま。
 蛍は、揺れる瞳で杏寿郎を見た。


「鬼は人を殺したら、容赦なく頸を刎ねられるのに。なんで人は、それが許されるの?」

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