第22章 花いちもんめ✔
「なら何故君は、あの男を殺そうとした? ただの一般市民なら手を下す必要などないはずだ」
「……」
「そうしなければならない程に、見逃せない何かがあったのだろう。許し難い何かが」
「……」
「教えてくれないか。君と、あの男のことを」
杏寿郎が核心を突くように問いかけたのは、与助との遭遇から初めてのことだった。
いつもなら話せるまで待つと付け足したはずだ。
伝えられる範囲で構わないと。
しかし今回は言い切れなかった。
知りたかった。
教えて欲しかった。
蛍の人間を辞めさせた者のことを。
黙り込む蛍に、杏寿郎はひらりと片手を振ると足元の鴉を外へと促した。
時間帯は真昼だが、部屋の奥に太陽の光は届かない。
杏寿郎の手により襖が締めきられ更に光を遮断すると、室内全体が薄らと影を背負う。
「…俺は知りたい」
後押しをするようにゆっくりと告げた杏寿郎の姿もまた、影を背負う。
目に眩しい程の主張を潜めた姿に。
蛍は固く結んでいた唇を、ゆっくりと開いた。
「姉さんを、殺したの」
静寂にぽつんと落ちる。
小さな声だった。
「私に病気だとうそぶいて、姉さんに毒を盛っていた。足が付かないように、少しずつ毒の量を増やして病死に見せかけるようにして」
片腕を掴み俯いて話す蛍の表情は、読み取れない。
「あの男にとって、姉さんや私は人じゃなかった。道具にしか見えていない。使えるか、使えないかだけ」
しかし告げる小さな声には、次第に感情が増していく。
「ごみ屑を見るような目を向けてくるあの男達の方が、屑同然だった」
静かだが、感情を抑えて耐えているような声。
ふつふつと湧き上がる感情は怒りだ。
男達と言うのならば、あの町中で出会った男一人の話ではなくなる。
それを蛍に問いかけずとも、今までの情報と組み合わせることで答えは出せた。
杏寿郎が初めて彩千代蛍という鬼の情報を聞いたと同時に、知った事実。
〝鬼化した女は、数名の男と実姉を一夜にして惨殺した〟