第22章 花いちもんめ✔
「体の具合はどうだ。血を摂取した時のような変化は?」
「…ん、と…体が火照る感じは、する。血を飲んだ時みたいに、強いお酒が回るような感じはしないけど…こう、なんか、じわじわと………ねぇこれ本当に成果あるのかな?」
「何を今更。まだ検証は始めたばかりだろう」
飢餓への研究から派生したもの。
それが、血液以外のものでも代用となり得るか、というものだった。
人間の血肉を糧とする鬼ならば、その体液も糧となる可能性は高い。
手始めにと杏寿郎が提案したのが、口移しで体液を与えるというもの。
果たして体の火照りは体液の所為か、杏寿郎との行為の所為か。
どちらとも取れない症状に、はふりと息をつきながら、蛍はか細い声を零した。
「そうだけど……なんか、恥ずかしいというか…」
「何を今更。俺は蛍のもっとあられもない姿を見ているぞ」
「ああやめて今絶対想像してるでしょ」
「していない! 例えしたとしてもそれこそ理性で抑えられなければ蛍の師として」
「ああはいわかったわかったからっ大きな声で言わないで千くんに聞こえるっ」
「カァ!」
「あ」
「む」
二人の会話を遮るように、突如一羽の鎹鴉が部屋へと飛び込んできた。
飛び込んでから邪魔をしたと悟ったのか、戸惑うように杏寿郎の足場に着地したのは炎柱の友ではない。
「あれ? この子、要じゃない」
「要は別件に向かわせているからな。捜索の結果か?」
不慣れな炎柱の圧を前にして、たじたじと見上げた鴉はこくりと一度頷いた。
「不審者ハ未ダ発見デキズ! 男ノ目撃情報ハ無シ!」
「やはりそうか…」
己の顎に指をかけて、ふむ。と杏寿郎は頷いた。
男を見失ってすぐ要に捜索をさせたが、見つからなかったのだ。
あれから一日経った今、範囲を広げようとも見つけ出せないのも無理はない。
「相手が鬼でなければ、これ以上鎹鴉を借り出す訳にもいくまいか…」
「…そこまでこだわる必要あるのかな」
「ん?」
「あの男は、ただの一般市民だよ。鬼とも、鬼殺隊とも関係ない。これ以上捜しても、なんの利益もないと思うけど…」
黙って事を見守っていた蛍が、いつもより主張を弱く、言い難そうに伝えてくる。