第22章 花いちもんめ✔
朝日を迎えた杏寿郎は、告げた通りに〝鬼殺隊〟としての姿勢を既に整えていた。
すぐさま鎹鴉を飛ばし、蛍にも今後のことについて指示を出す。
一に、血鬼術である影鬼の掌握。
蛍自身理解していないところも多く、まずはそれら不可解なところと向き合うこと。
少しでも自分の支配下とする為の鍛錬となる。
二に、鬼の本能の抑制向上。
蛍は長いこと人を前にしてそれに耐えてきた。
今更不必要かとも思われるが、それでも一人の男を前に血鬼術を暴走させてしまったのは事実。
欲を理性で抑え付ける為には、身体ではなく精神の鍛錬が必要となる。
三に、そこから派生した蛍の飢餓への細かな研究。
どれだけの期間、どれだけの量の血を欲しているのか。
これについては、今までしのぶが綴ってきた記録が大いに役立った。
ただ一つ、特別に変化があったとすれば。
「──っふ…ん、」
薄暗い部屋の隅。
頸を仰け反る程に上に傾けた姿勢で、蛍はそれを受け入れていた。
顎を持ち上げる手が支えてくれている為に、体制を崩すことはない。
こくりと喉を嚥下すれば、口内を伝って生温かな体液が体の中へと沁み込んでいく。
こく、こく、と何度も嚥下を繰り返し、餌を分け与えられる雛鳥のように喉を鳴らす。
全て零さないようにと飲み干せば、顎を包んでいた手が喉元を優しく撫でた。
そんな些細な触れ合いにも、体はぴくんと反応してしまう。
「…ん、全部飲めたな。いい子だ」
ゆっくりと顔を離して満足げに笑う杏寿郎を見ると、顔は余計に熱を持つ。
返事をする代わりに、蛍はこくりと小さく頷いた。
唇で行う愛撫とは違う。
口移しで唾液だけを飲まされるなど情事中にもしたことがない行為だ。
普通に考えれば受け入れ難い行為。
それでも容易く飲み干せてしまうのは、相手が杏寿郎だからか。己が鬼だからか。
(…多分、どっちもだ)