第21章 箱庭金魚✔
「その生き方を否定するつもりはない。言葉にできない時は、無理に口に出さなくてもいい。上手く立てない時は、いっそ蹲ってくれてもいい。ただその傍にいさせて欲しいんだ」
「…っ」
「丸めるこの背を撫でることくらいは、許して欲しいと」
大きな掌は、蛍の背に触れたまま。
そこからじんわりと伝わってくる温もりが、まるで杏寿郎の想いそのもののように感じた。
押し付けるでもない。
距離を取るでもない。
ただただ静かに、寄り添うようにそこにいる。
「…私…そんなに言う程、強くないよ…」
「ふむ、君は謙虚なのだな。強いかどうかは別として、常に強くあろうとする姿は沢山見てきた。俺自身の目だ、否定はさせないぞ」
「…私…そんなに立派でもないし…」
「立派の定義がなんたるか俺は知らないが…それは己ではなく、他人でも定められるものではないか? 少なくとも俺は君を誇っている」
「……私、」
「うん」
何を吐露しても、優しく受け止めてくれる。
全てを肯定して、受け入れて、認めてくれる。
どこまでも愛情に満ち満ちた腕の中で、蛍は顔を隠すように抱き付いた。
厚い胸板に顔を埋めて、強く目を瞑る。
杏寿郎の言う通りだ。
上手く弱音は吐けないし、立ち振る舞いも覚束ない。
それでもいいと言ってくれたからこそ。
「わたしを…嫌わないで」
小さな小さな幼子のような声で、さけぶ。
ひとつだけ聞こえた蛍の本音に、杏寿郎は言葉を呑み込んだ。
どんな思いでも受け止められる気でいた。
しかし聞こえたのは、どんな予想とも違った思いだ。
鬼への思いを捨てきれない自分を嫌わないでと、京都で告げられたことはある。
あの時は意味がすぐに理解できた。
だが今は。
「……」
何故嫌わなければならないのか。
蛍がまだ見せていない心の奥に、その理由はあるのか。
〝──知りたい〟