第21章 箱庭金魚✔
何に対しての謝罪なのか。
上手く説明もできないままに零れた本音は、静かに拾われた。
「いいんだ。謝ってくれるな」
意図が捉えられないことであれば「どういう意味か」と遠慮なくずけずけと訊いてくる。
それが煉獄杏寿郎という男だ。
それでも今夜は違っていた。
突然の謝罪の意を追求することもなく、蛍を緩く抱きしめると優しく背を撫でる。
大きな掌で、幾度も。
幼子をあやすかのように。
「鬼と違い、人間の活動時間は基本的に真昼だ。日が昇れば、俺も鬼殺隊として君と接しなければならない。…それまでは、」
鬼殺隊の活動時間こそ、鬼と遭遇する夜が本場だと言うのに。
炎柱らしかぬ発言に、つい顔が上がる。
あんなにも視線が絡むのを躊躇した優しい瞳を、今度は見つめ返すことができた。
「ただの男として、君を想わせてくれ」
言い訳にもならない理由を述べてまで優しさしか見せなかった意味を、ようやく悟る。
「今は何もしなくていい。ただ君の傍にいたい」
気にならないはずがない。
与助のことも、血鬼術のことも。
鬼殺隊としても、見逃していいことではない。
それでも今夜だけは、と。
杏寿郎が何より優先したのは、鬼である蛍でも、人間であった柚霧でもない。
焦がれて止まない、彩千代蛍という一人の女性だ。
「俺の知っている彩千代蛍という女性は、こういう時こそ一人で立とうとするひとなんだ。他人の手を借りず、自分で道を見つけて切り拓こうとする。俺はそんな彼女を誇りに思うが、同じくらい心配も募る」
まるで他者に語るように告げる。
眉尻を少しだけ下げて、杏寿郎は困ったように笑った。
「人は誰しも最初から強い訳ではない。その道を見つけて踏みしめるまでの間、挫けることも弱音を吐くこともあるだろう。…それを他人に晒すのが、彼女は不慣れなようでな…きっと今までそうして生きてきたのだろうと思う」