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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第21章 箱庭金魚✔



 初めて杏寿郎相手に口淫で奉仕した時、嫌悪感の一つも生まれなかった。
 その理由の一つが、鬼としての摂取があったからだとわかった。

 そして、もう一つの理由は。


「私だって、杏寿郎にこんなふうにたくさん触れていたい。…私の手で、杏寿郎をたくさん気持ちよくもさせたい」


 受け入れるばかりは嫌なのだ。
 自分からも何か与えたい。
 気持ちよくさせたい。

 杏寿郎が赤裸々に語ったからこそ告げられた、それも蛍の本心だ。


「だから、いいよ…その、杏寿郎の、体の負担にならない程度で、なら…」


 小さな声がぽそぽそとより小さく萎む。
 暗闇の中だというのに、恥じらう蛍の様がはっきりと伝わってくるようだ。

 何度も組み敷いてきたからこそわかる。
 恥ずかしがることの多い蛍だが、こうして稀に己の欲だって見せてきてくれるのだ。
 その度に心と体は簡単に揺さぶられる。


「~っ…毎日だってできる…」

「そ、そんなに」


 思わず蛍の顔の横に、拳を握った腕を付いて項垂れる。

 そんな姿を見せられれば、簡単に男の欲なんて熱を持つ。
 視線を外したまま本音をぼそりと告げれば、蛍は更に赤面した。


「好いた相手に欲情くらい、いつだってできる。言っただろう。毎日だって君を抱きたいと」

「…っ」


 動揺する蛍の気配を前に、杏寿郎は深く息をついた。
 心頭滅却、と心の中で何度も言い聞かせて、頭を擡げようとする己の欲を静めた。


「だが君に己の欲を飲ませるとなれば別だ。果たしてそれが本当に飢餓抑制の効力を持つのか、諸々試すこともある。今は飢餓の兆候はないのだろう?」

「う、うん」

「ならばゆっくりいこう。今日はこのまま、蛍と共に眠りたい」

「…うん」


 抱きたいという欲はいつだって尽きない。
 しかしそれをすべきでない時も心得ている。
 今がそうだ。

 ゆっくりと体を再び横たえると、杏寿郎は片腕で蛍を抱き寄せた。
 凭れるように蛍も身を任せて、互いの体温を分かち合う。

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