第21章 箱庭金魚✔
ふ、と微かな吐息が零れ落ちる。
ふわふわと思考を蕩けさせるような甘い舌での逢瀬に、自然と両手は広い背中へと回っていた。
(──あ…そ、っか)
絡んで溢れる唾液をこくんと飲み込んで、蛍は漠然と理解した。
杏寿郎と体を重ねた後は、飢餓症状は沈静化していることが多かった。
それは合間に杏寿郎から与えられる血のお陰だと思っていたが、それだけではなかったのだろう。
唇から直接伝わる体液も、苦みを感じながらも自然と受け入れられた精液も。
吐き出さなかったのは、自然と己の糧へと変えていたからだ。
血や肉と同じ。
それだって人間の生み出したものの一部なのだから。
華響のように、人間の生気を吸う能力は蛍にはない。
しかし直接喉を通して飲み込み体の一部とすれば、それは喰らうことと同じこと。
「──…」
音もなく息をついて、杏寿郎が名残惜しげに唇を離す。
いつの間にか蛍の体を下にして組み敷いていた。
はふりと熱い吐息をつく蛍の顔は、暗闇では詳細までわからない。
それでも伝わる彼女の熱に、自身の欲が頭を擡げようとするのがわかった。
「…やはり己の欲を飲ませるのは言い過ぎだな…悪かった」
それを押しとどめようとするように、杏寿郎は静かに謝罪を口にした。
千寿郎が与えられるなら自分もと急かすあまり口走ってしまったが、己の精液を直接飲ませて食事の代わりにしようなどと。
とてもじゃないが慕う相手に勧めることではない。
「…いい、よ」
しかし蛍は違った。
熱を帯びた顔はそのままに、背中に添えた手が杏寿郎の着物を握る。
「それで、杏寿郎が血を流す機会が減るなら。私はそれでも、いいよ」
「…本気で言っているのか?」
今度は杏寿郎が驚く番だった。
本気かと目で訴えてくる視線に、蛍は羞恥混じりにこくりと頷く。
「だがあんなものを食事にするなど」
「血だって本来飲むものじゃないよ」
「む…それはそうだが」
「それに、嫌じゃなかったから」