第21章 箱庭金魚✔
「蛍はまだ千寿郎に会ったばかりだからな。弟の強さを知らなくとも無理はない」
「強さ?」
「例え刀を握れず戦う力がなくとも、千寿郎には千寿郎の生きた軌跡がある。俺の目から見ても、多くの苦難を背負っている者だ。その分、進んだ歩みはより強くなる」
簡単ではない凸凹な道。
それを乗り越えるだけの力が千寿郎にはあった。
「じゃあ、杏寿郎の目から見て、どう?」
「む?」
「今日の千くん。帰ってきてから、ずっと私のこと気遣ってくれていたけど…無理してなかった?」
千寿郎のことをもっと知りたい。
その心を汲み取れるようになりたい。
そして寄り添えるようになりたい。
それでもまだまだ蛍の知らない千寿郎の顔は山程ある。
兄である杏寿郎の目から見てどうだったのか。
ようやく顔を向け問いかけてくる蛍に、杏寿郎は太い眉を優しく下げた。
「何も心配はない。蛍に見せていた顔は、どれも千寿郎の本心だ。元々は世話焼きが得意な子だしな」
「しっかりしてるもんね」
「蛍に似たところもある」
「そう…かな?」
「うむ」
千寿郎が蛍の為にと、目を向け声をかけ手を差し出していた姿と。あの暗い路地裏から現れた蛍の姿は、杏寿郎には同じに映っていた。
顔を真っ青に足取りも覚束ない中、それでも千寿郎の呼びかけに誘われるように出てきた蛍は、一切自身を見てはいなかった。
逃げずに踏ん張っていたのは、他ならぬ呼んでくれた千寿郎の為だ。
いじらしいと思う。
そんな彼女と弟が、愛おしいと思う。
二人の間に起きたことだから、無暗に自分が介入することではない。
わかってはいるが、それでも大切な二人のことだ。
心が逸り落ち着かなくもなる。
「蛍」
「ん?」
介入できないのであれば、せめて他のところで。
「こちらへ来ないか?」
「…え?」
自分にできることが何かありはしないかと。