第21章 箱庭金魚✔
「…どうしてこうなった…」
それから一時間後。
昨夜のように三人並んで川の字で眠る様に、蛍はぽつりと思いの丈を吐露した。
一つ違うところは、布団はそれぞれに一組ずつきっちりと敷かれていることだけだ。
眠るスペースはあれど、まさかまた同室で寝る羽目になるとはと堪らず蛍は誰にともなく突っ込んだ。
「蛍は共に寝るのが嫌なのか?」
「そういう訳じゃないけど……杏寿郎、まだ起きてたの?」
「千寿郎は寝たようだからな。静かにしよう」
体を横たえたまま、しぃ、と口元に人差し指を立てて顔を向けてくる杏寿郎に、蛍は布団を引き上げて口元を隠した。
まさか聞かれていたとは。
椿油で髪を梳かし合った時のように、三つ並べた布団に小・中・大、とできている山々。
真ん中でどちらを向こうにも焔色の頭と凛々しい眉の煉獄兄弟と顔合わせになってしまう状態に、蛍はどうしようもなく天井を見つめていた。
「今日は色々あったからな。千寿郎を一人にさせられないと思ったんだ。勿論、蛍のことも」
昼間の快活な声が嘘のように、か細い小さな声で囁きかけてくる。
杏寿郎のその意見は至極真っ当で、蛍は反論も思い付かなかった。
怪我をさせただけでなく、本来なら一生触れなくていいはずの感情の渦に千寿郎を落としてしまった。
その年頃の少年が抱えるには重過ぎるものだ。
それだけは、怪我をさせたこと以上に蛍を後悔させた。
怪我はいつか治るものでも、心の傷は早々には治らないのだから。
「千寿郎が気になるか?」
無意識にじっと幼い寝顔を見つめてしまっていた。
すぅすぅと穏やかな寝息を立てている少年に安堵はするものの、不安は残る。
「…千くんって凄い子だね」
「うん?」
「隊士でも鬼でもないのに、あんなことがあった後に、こんなにも真っ直ぐ向き合おうとしてくれるなんて。簡単にできることじゃないよ」