第21章 箱庭金魚✔
「千寿郎の涙が零れる度に口にするのなら、俺のものも零れる度に口にするということだな」
「血を? そんな怪我するのが前提みたいな」
「いいや違う。昨夜、俺が蛍に与えたものだ」
「昨夜…?」
「自分でも先程言っただろう」
「──あっ」
はて、と頸を傾げていた蛍が、何かを悟ると同時に見る間に熱を帯びていく。
「そういうことだな」
「え、いやちょっ」
「ならばよし! これでこの話は終わりだ!」
さくさくと話を断ち切った杏寿郎は、ようやくすっきりとした爽やかな笑顔を見せた。
反して蛍の顔は動揺を隠しきれず、赤く染まっている。
「さぁ寝床作りだ! 千寿郎は休んでいなさい、腕の怪我もある!」
「は、はい…」
「待って杏寿郎…ッ」
「待たない! 今日は騒がしい一日だったからな! 早く千寿郎を休ませなければ! 無論蛍もだ!」
「千くんに関しては同感だけど…でも待ってッ」
肩から手を離し寝床作りに向かう杏寿郎を、蛍が慌てて追う。
突風のような二人の姿をぽかんと見送っていた千寿郎は、不思議そうに一人頸を傾げたのだった。
「……汗、とかかな…?」