第21章 箱庭金魚✔
ちぅ、と吸い付いたのは、僅かに滲んでいた千寿郎の涙。
途端にボン!と千寿郎は顔を真っ赤に染め上げ、ピシィ!と鋭い亀裂音を立てて杏寿郎は固まった。
「ふむ。成程。うん、いける」
「あぁあぁぁ姉上っ!? なっなに、何を…!」
数滴にしか満たない少量の涙。
それをこくんと飲み込むと、ぺろりと唇を舐めて頷く。
平然と涙を口にした蛍に対し、しどろもどろに叫ぶ千寿郎は顔から火が吹き出そうな程の動揺だった。
「何って、千くんの涙を貰ってぅッ?」
落ち着かせる為にもと蛍が説明しようとすれば、ぐんっと強い力で千寿郎から引き剥がされた。
がっちりと蛍の両肩を掴んで引き寄せたのは、真顔で両目を大きく見開いていた杏寿郎だ。
「何故血の代わりに、涙を口にする意味が?」
「え。…っと」
ぴくりとも笑わず一言一言重みある問いかけをしてくる杏寿郎に、つい気圧されてしまう。
それでもどうにか蛍は然るべき理由を説明した。
「前に、胡蝶に教えてもらったの。涙は血液の一種なんだって」
「えっ…そう、なのですか…?」
「それは真か」
「ま、真真。医学知識のある胡蝶が言うんだから、信憑性のあるものだと思う。なんなら胡蝶に確認して貰ってもいいし」
「…そこまで言うのなら真実なのだろう」
「うん…」
ようやく納得したのか、蛍の肩を掴んでいた指先の力が弱まる。
それでも離す素振りのない杏寿郎に、蛍はごくりと涙とは別のものを飲み込んだ。
「まぁ…だから、千くんから貰うなら涙にしようかな。それなら千くんの希望と共に需要と供給は成り立つし。お互いに良いかなって」
千寿郎を傷付けてしまった時より、追い込まれている気分なのは果たして気の所為か。
場の空気を変えようと、蛍は取り繕うように笑った。
「今飲んだ感じでも、血液程の満足感はないけど、体液の一つだし。少しはお腹が満たされるかなぁと」
「体液、ですか…」
「うん。似たようなものは杏寿郎相手でも貰ったことがあるし。案外血の代わりになるのかも」
杏寿郎の場合は精液だったとは、流石に言えないが。