第21章 箱庭金魚✔
「姉上が望むなら、私だって」
意を決したようにぎゅっと唇を噛むと、指先を蛍の口元へと寄せる。
そんな千寿郎の姿に、蛍は。
「…っ」
「蛍っ?」
額に手を当てて、ふらりと頭を揺らした。
「よもや血に酔ったかっ?」
「どうしよう…別の意味でお腹いっぱいになってしまった」
「む?」
慌てた杏寿郎が肩を掴んで支えれば、至極真面目な顔をした蛍が視線を上げる。
「千くんの愛らしさと健気さに」
「…成程」
「ぁ…姉上…」
本来なら呆れるか笑ってしまうところ、杏寿郎は安堵に似た笑みを浮かべた。
多少の構えはできてしまったが、蛍の千寿郎への思いは根本何も変わってはいない。
それを実感してほっとしたのだ。
「だが千寿郎の血はそう易々とやれないな。元よりお館様のご指示で、血を与えられるのは柱のみとなっている」
「あ。そうだった」
「故に飲むなら俺の血を与えよう!」
「で、でも私にもできることを…」
「ううん。そうだよね。千くんには無暗に血を流して欲しくないし」
「姉上まで…」
「それに血豆は出血とは違うから。わざわざ怪我を大きくしたら駄目」
蛍の言葉に、千寿郎は下がり眉を更に下げるとしゅんと肩を落とした。
落ち込む姿には罪悪感も覚えるが、幼い少年の体になるべくなら血を流させたくはない。
「あ。じゃあ」
ふと蛍の目が一点で止まる。
んん、と言葉に詰まっていた声を上げると、再び優しく問いかけた。
「千くんに、触れてもいいかな」
「え?」
「痛いことはしないから。もう出ているものを貰ってもいいかなって」
「あ、もしかしてこの腕の怪我ですか? それなら血は止まりましたが、姉上が啜れる程度なら」
「それは駄目だぞ千寿郎! 傷口を開かせるようなことは」
「大丈夫」
乗り気な千寿郎と、反して厳しい顔をする杏寿郎。
二人の予想に頸を振って違うと蛍は笑うと、ふっくらとした幼い頬に両手を添えた。
「動かないでね」
「あね──…?」
大きな瞳を不思議そうに向けてくる千寿郎を見返すと、蛍はそっと金輪の双眸に唇を寄せた。