第21章 箱庭金魚✔
千寿郎の後ろに蛍。蛍の後ろに杏寿郎。
マトリョーシカのように小・中・大、と縦に並んで髪を梳く。
「千くん、痛かったら遠慮なく言っ…ふ、ふふっ」
「姉上?」
「杏寿郎、くすぐったい…っ」
「む。ならばこうか?」
「ひゃっ、ちょ、どこ触ってっ」
「あ、兄上?」
「なに、頭皮の揉みほぐしをしてやろうとな!」
「そこは頭皮じゃなくて頸っ手元が狂って千くんが怪我したらどうするのっ?」
「千寿郎も日々己を磨いている立派な男子。多少強く揉んだくらいで痛がりはしないぞ!」
「痛ッ」
「千くん!?」
「む!?」
わしゃわしゃと愛玩動物を愛でるような掻き撫でに、堪らず蛍が声を上げて笑う。
かと思えば大きなその手が髪を掻き上げ様にうなじに触れて、びくりと体を跳ねさせた。
更に驚いたのは、一番前でちらちらと振り返っていた千寿郎から漏れた悲鳴だ。
何事かと目を剥く二人に振り返ると、千寿郎は突発的な痛みに少しだけ涙を滲ませた目を向けた。
「い…いえ。椿油の瓶の蓋で、指を挟んでしまいまして」
「私達が騒いだからだよね、ごめん」
「それはいいんです。兄上と姉上が仲良くしている姿は、見ていてこっちも楽しくなりますし」
「そ、そう…? ならよかっ」
「千寿郎、指に血が」
「よくない手当てっ」
「大丈夫ですよ。ちょっと内出血しただけで……あ」
「え?」
「む?」
血と聞いた蛍の顔色が変わる。
反して大丈夫だと頸を振る千寿郎は、血豆のできた指に何かを閃いたようにくるりと振り返った。
「こういう時は姉上に分け与えた方が良いのでしょうかっ」
「え、何を」
「血ですっ」
「ち?」
「はい」
至極真剣な表情で血豆を見せてくる千寿郎に、ぽかんと思わず蛍は目を丸くしてしまう。
その目で改めて差し出された指先を見れば、血の滴る様子もない小さな小さな血豆だ。
薄い皮膚の下の為、誘うような血の臭いだってしない。