第21章 箱庭金魚✔
姿は悍ましいものでも、それ以上に悍ましい悪鬼を幾度も見てきたのだ。
目の前の子供は外見こそ異様であっても、京都の鬼である華響から強く感じた殺気や、月房屋の男から滲み出ていた嫌悪感などはない。
ただ純粋に、花にだけ興味を示しているように見える。
まるで知能の欠けた子供のようだ。
「はな?」
歪に顔に貼り付いている瞳が、きょろりと蛍の頭を見つめる。
何に興味を示しているのか、蛍にも理解できた。
「…うん。これも花、だよ」
そっと耳の上に飾られた、星型の花弁に触れる。
蛍の髪に差し込んで「永遠の愛」だと告げた、杏寿郎を思い出して。
「ま、え」
「え?」
「なま、え。はな?」
「ううん。名前は、桔梗っていうの」
「き。きょ?」
「ききょう」
「きょ。き、きょ」
ゆっくりとその名を告げれば、赤子のような手をぱちぱちと叩いて歪な目が笑う。
(私の言ってること、わかってるみたい)
辿々しいが意思疎通はできているようにも思える。
害があるようには見えない。
ただこんな容姿の子供がいれば、大なり小なり村で噂になるはず。
(そうじゃないってことは、世間には知られていない子?)
駒澤村へと迷い込んできた孤児か。
それとも別の何かか。
「君、名前は? 何処から来たの?」
「きょ…?」
「お父さんやお母さんは?」
ゆっくり言葉がわかるようにと問いかけてみるが、子供は頸を傾げるばかり。
意味が伝わっていないのかと、蛍は別の問いかけをすることにした。
人差し指を立てた手で、子供を指差す。
「君は人間? それとも……鬼?」
「お…に?」
真似るように小さな手が、人差し指を立てる。
「お。に。おに」
「違うよ。私のことじゃなくて、君のこと」
「おに。おに」
「ちが…」
蛍を真似ているのか。立てた人差し指を向けて何度も「鬼」と連呼する子供に、蛍は不意に唇を噛み締めた。
(違わない。私は、鬼だ)
自分こそが、その名が相応しい者だ。
否定などできようか。