第21章 箱庭金魚✔
(どうしよう。もう、合わせる顔がない)
千寿郎を、関係のない人々を、これ以上傷付けない為に距離を置いたなどと。そんなのは建前だ。
会えない。
会うのが怖い。
またあの恐怖の顔を向けられたら。
拒絶の態度を取られたら。
千寿郎だけではない。
杏寿郎があんなにも大切にしている家族を傷付けてしまった。
どんな苦難を前にしても進んできた杏寿郎だからこそ、鬼である蛍も受け入れられた。
しかしその杏寿郎が何より大切にしている弟を傷付けてしまったとしたら。
彼はどんな目で自分を見るだろう。
「…ぃゃ…」
こんな所でうずくまっている場合じゃない。
千寿郎の怪我の手当てをして、杏寿郎にも頭を下げなければいけないと言うのに。
それでも怖さで足が竦む。
例え杏寿郎に許されたとしても、もう以前のように千寿郎とは関わらせて貰えないかもしれない。
千寿郎の心に傷を付けたのは確かなのだ。
自分に怯える千寿郎を感じながら、共に生きることなどできるのだろうか。
そんな恐怖を植え付けてまで、煉獄家に自分が居座る資格はあるのだろうか。
「ごめん…ごめんなさい…っ」
何より大切だからこそ、壊れてしまうことが何より恐ろしくて堪らない。
どうしたらいいのか答えが見つからない。
小さな花束を抱えたまま喉を震わす。
立つことのできずにいる蛍は、気付けなかった。
細い通路の奥から、じっと見つめる目があったことを。