第21章 箱庭金魚✔
思いもかけない名を耳に、蛍は目を見開き固まった。
柱でも鬼殺隊でもない男が、何故その名を知っているのか。
理由など一つだけだ。
柚霧であった頃の自分を知っているから。
「…ぁ…っ」
驚く蛍に対し、男は更に動揺していた。
自ら掴んでいた手を離すと、腰が抜けたかのようにその場に崩れるように尻餅をつく。
「やっぱりお前、だ…柚霧…! なんで、お前が此処に…ッ」
声を荒げる男に、意識を止めたのは蛍だけではなかった。
「蛍?」
「姉上、どうされました…っ?」
離れていることに気付いた杏寿郎と千寿郎が、こちらへとやって来る。
声で、気配で、振り返らずとも感じ取れる。
それでも蛍は反応できなかった。
「ほたる…ああ、そんな名前だった…っお前やっぱり柚霧か…!」
震える手で指差してくるその男から目が離せない。
(──なんで)
何故、と疑問をぶつけたのは蛍もまた同じだった。
何故、この男が。
(なんで)
何故、この場に。
(なんで)
何故。
(生きて、いるの)
あの時、殺したはずだ。
「あれから三年も経ったってのに…なんで今更化けて出やがる…!」