第21章 箱庭金魚✔
蛍の目にも意識して止まっていたものだからこそ、すぐにそれと直結する。
「あの…?」
男の手は差し出した形のまま。手渡そうとしない蛍に、再び怪訝な表情へと変わる。
「すみません。これ、何処で拾ったんですか?」
「? これは私の私物ですが」
「じゃあ、何処で買われたんですか?」
「はい?」
豪華ながら上品さも残した髪飾りは、蛍にも一目で高価なものだとわかる。
そんな物が、幾つも売られているだろうか。
例え売られていたとしても、偶然同じ日に同じ場所で見かけるだろうか。
本当に偶然だと言われればそれまでだ。
それでも何故か、蛍の中で何かが腑に落ちない。
「何処だっていいでしょう。それを話さなければいけない理由が?」
「す、すみません。知り合いの髪飾りに似ていたもので…」
明らかな不快感を示す男に慌てて頭を下げる。
腑に落ちない理由も、はっきりとはしない。
しかし何故か胸がざわつく。
それでも確固たる証拠は何もないのだ。
「だからって人様のもんを勝手に所有化されたんじゃ堪んねぇな。嬢ちゃん、口に気ィ付けな」
蛍が頭を下げれば、男は溜息と共に砕けた口調で悪態をついた。
それが男の素なのだろうか。
引っ手繰るように髪飾りを奪うと、徐に蛍の顔をじろじろと観察し始めた。
ねっとりと纏わりつくような視線に、首筋の裏が寒くなる。
(なに、)
この感覚は知っている。
品定めしてくるような男の目に、幾度も肌を晒してきたのだ。
それでも鬼となってから、ここまで寒気を感じたことはなかった。
急所が寒気を覚えるようなこの感覚はなんだ。
「あんた…この村の娘かい? 見ない顔だな」
「…私用で立ち寄っているだけですが…」
何故そんなことを訊かれなければならないのか。
杏寿郎に声をかけてきた延長線上で、話を振ってきた村人達ならわかる。
しかし偶然拾い物をしただけの、それも印象の悪い自分などに何故そんな興味を示すのか。