第21章 箱庭金魚✔
「うまい!」
「なんだか今日は沢山ご馳走を頂いている気分です…はふ、」
「なんのまだまだ。いくらでもおかわりをしていいんだぞ、千寿郎」
「ふふっ私は兄上みたいに沢山食べられませんよ」
「む! ならば店主、この揚げ餅を十程包んでもらえないだろうか!」
「えっ持って帰ってまだ食べるの?」
「あ。父上へのお土産ですね?」
「千寿郎が正解だな!」
人通りのある露店で、香ばしくも甘い匂いに誘われ買った揚げ餅。
上品で真新しい洋食スイーツとは違う、ほっこりと安心するような味に千寿郎も舌鼓をうつ。
時間を忘れる楽しみの中でも、しっかり槇寿郎のことは忘れずにいる兄弟に、蛍も殊更笑みを深めた。
京都観光で、杏寿郎に気付かせて貰えた時と同じだ。
見慣れない景色も、聞いたことのない話も、知らない味も。時間を忘れる程に楽しいと感じるのは、同じ楽しみを共有している人がいるから。
それが自分の大切に想う人達であれば、尚の事。
願わくば耀哉に設けてもらった休暇が全て、こんな穏やかな時間でありますようにと。
そう思わずにはいられない。
──パサッ
声高々に揚げ餅の追加を頼む杏寿郎に、夕餉が入らなくなりますよと優しく嗜む千寿郎。
そんな二人を日傘を手に見守っていれば、蛍の足元近くにそれは落ちてきた。
(あ。)
落ちていたのは白い装飾物。
振り返れば、落とし主であろう人が足早に去っていく。
「あのっ」
咄嗟に拾い上げて呼びかける。
足早な男を追いかけるように、蛍もまた小走りで後を追った。
「落としましたよっこれ」
「?」
振り返った男は最初は怪訝な顔をしていたものの、蛍の差し出した物に気付くとぱっと表情を緩めた。
「ああ、すみません」
「いえ」
差し出した男の手に乗せようとして、改めて視線を手元に落とす。
(あ、れ?)
それには見覚えがあった。
ふるりと揺れる大きなリボン型の髪飾り。
きらきらと輝く小さな宝石型の装飾が縫い付けられた、上品ながら煌びやかなものだ。
(これ…八重美さんの?)
見覚えがあって当然だ。
それは、つい数時間前に目にしたものだった。