第21章 箱庭金魚✔
それでも折角兄弟で過ごせる自由時間が生じているのだ。
それを活用せずしてなんとする、と蛍はぱんと両手を合わせた。
「私、折角だから駒澤村のこともっと色々見てみたいな。時間を貰ってもいいなら」
「ふむ。故郷に興味を持たれるのは俺も嬉しいことだ。千寿郎はどうだ?」
「夕餉までまだ時間もありますし。私も、姉上には楽しんで頂きたいです」
「本当?」
好意的な返事を貰えて蛍の声も弾む。
二人の為でもあるが、蛍自身、駒澤村には興味があった。
煉獄家付近は農村地帯だと杏寿郎が話した通り、幾つもの家屋敷が並ぶ住宅地だ。
裏手には雑木林(ぞうきばやし)や田畑が広がっており、のどやかな景色を見ることができる。
しかし同時に駅も近く設備され、人の賑わう場所に出れば商業施設も多く見受けらる。
西洋文化を取り入れた飲食店や服飾店もあり、路面電車さえも走っている。
あさかぜ号とはまた違った道路を走る鉄の乗り物に蛍は目を輝かせた。
余りに近付き過ぎて、千寿郎に慌てて手を握られ止められた程だ。
その後は千寿郎に手を引かれるままに、村の中を案内された。
七つ以上離れた義弟に手を引かれるなど本来なら足踏みをするところ、蛍は真逆に始終嬉しそうに少年の小さな歩幅について歩いた。
後ろを保護者のようについて歩く杏寿郎の顔もまた、負けず劣らず満面の笑みを浮かべていたが、先を歩く二人は知る由もない。
母、瑠火の墓参りで訪れた墓地の裏手には、浄光寺(じょうこうじ)と呼ばれる立派な寺院が建っている。
京都の伏見稲荷大社に比べると小規模なものだが、それでも重厚感ある観音堂や頭上を囲うように生い茂る太く巨大な保存樹(ほぞんじゅ)には目を見張る。
やれ文安元年(ぶんあんがんねん)に開基(かいき)されただとか、やれ世田谷代官(せたがやだいかん)の歴代がどうだと語る杏寿郎に、本当に歴史が好きなんだなぁと深く意味を理解できずとも蛍もうんうんと相槌を打って耳を傾け続けた。
そんな時間は瞬くように、一瞬にして過ぎ去っていく。