第21章 箱庭金魚✔
顔を寄せ合い、甘いスイーツを前にころころと表情を変えては夢中になって楽しむ。
蛍と千寿郎のその姿に、杏寿郎はごくんと最後のカレーを飲み込むとカッと目を見開いた。
「ご馳走様でした! 色々と!!」
((色々と?))
その勢いに思わず二人の目が向く。
「わ、早い。杏寿郎もう食べ終えたの?(色々って何)」
「相変わらず見事な完食っぷりですね(なんでしょう)」
積み上げられた空の皿は、ライスカレー五皿にカツレツ八皿、サンドウィッチに至っては十二皿にもなる。
なのに机周りを一切汚さない綺麗な食い尽くしに、蛍と千寿郎は見慣れたものでも感心した。
内心頸を傾げながら。
「うむ。久々に洋食を味わったが、これもまた良いものだな。白米に辛い飲み物を組み合わせるとは斬新だ!」
「ねぇ千くん。あれ、ライスカレーのこと言ってるのかな」
「恐らく…。兄上、カレーは飲み物ではないと思いますよ…」
まるで飲料のように喉越しよく飲み込んでいた杏寿郎には天晴れとしか言いようがない。
いくら一般男性よりも造り上げられた肉体をしていようとも、体の何処にそんなにも入るものなのかと感心してしまう。
感心しつつ、つい笑ってしまうのはその場の空気が心地良いからだ。
「それにしても、こんなお洒落な洋食店まであるなんて。二人の故郷ってなんでもあるんだね」
「なんでも、ということもないぞ。一部地域は文化も発展しているが、古くから残り続けているものもある。現に生家の周りは昔から変わらない農村中心地帯だ」
「成程…じゃあ此処には京都みたいな歌舞伎座ってないのかな?」
「ないな。そういう大きな劇場は帝都に赴かないと」
「そうなんだ…」
ふと思い出したのは、今朝千寿郎が話していた能楽の羽衣だ。
今この時間なら二人の約束も果たせるのではないかと思ったが、考えは甘かった。
いくら任務前の休暇を貰っていたとしても、此処から帝都まで出向くのは距離もある為に難しい。
千寿郎が無理だろうと早々諦めていた理由もよくわかる。