第21章 箱庭金魚✔
「腹が減ったな!」
「そうだね。お昼もとっくに過ぎてるし」
「夕餉には早いですが、買い物でも──」
ぐきゅるるる
墓参りの帰り道、夕方と呼ぶにはまだ早い時間帯。
それでもしっかりと腹を鳴らしたのは、いの一番に空腹を告げた杏寿郎だった。
「握り飯だけじゃ足りなかったみたいですね…」
「うむ…折角だ。外食でもして行くか」
「外食ですか?」
「偶にはな」
墓参りの前に、急いで千寿郎が握った幾つもの大きめの握り飯は、杏寿郎の腹を五分程しか埋めなかった。
これは大変と千寿郎が足を急かせば、杏寿郎は即座に頸を横に振る。
千寿郎ばかりに働かせるのも忍びない、と考えた結果だ。
「ですが姉上もいますし、早く帰った方が」
「杏寿郎。千くん。私、あそこがいい」
「む?」
「え?」
「あれ、プリンじゃない?」
それでも鬼である蛍を昼間にあちこち連れ回すのは、と千寿郎が渋れば、声高らかに蛍は一軒の西洋料理店を指差した。
「プリンだよ、プリン。ババロアじゃない」
大きな硝子窓から見える広い店内には、高い机に合うように作られた洒落た高い椅子。
行儀良く座る洋服姿の女性達が、可愛らしい見た目のスイーツを口にしている。
あんみつやアイスクリンに、カステラやホットケーキ。
その中でも、ぷるんと弾むキャラメル色のプリンに蛍はすっかり心を釘付けにしていた。
「プリン、ですか」
「うん。プリン。ババロアじゃない」
「? それはそうですが…」
蛍がプリンに胸を弾ませる理由を知っているのは杏寿郎だけだ。
不思議そうに頸を傾げる千寿郎を前に、蛍ははっとすると眉尻を下げた。
「あ。でも高そうなお店だよね…考えなしにごめん」
「そういう問題なら皆無だな。俺もプリンが食べたい!」
「本当?」
「ぁ、兄上もですか?」
「千寿郎は異論あるか?」
「いえ、特には…でも姉上はプリンは食べられないんじゃ」
「うん。だから千くんが食べてね」
「私が?」
「ぜひ感想を教えて下さい」
「え」
「よしでは行こう!」
「えっ」
全ての荷物を手に先頭を切る杏寿郎は迷いがない。
反して、本当にいいのかと戸惑う千寿郎に、差し出される手が一つ。