第21章 箱庭金魚✔
(…そういえば、)
そもそも杏寿郎から貰えるなら、道端の花だってなんだって嬉しいものだ。
しかし頭に飾り付けた桔梗に触れてふと思い出したのは、同じようにリボン型の髪飾りを大切そうに身に付けていた八重美だった。
母の静子は、それは杏寿郎が八重美の為に選んだものだと言った。
異性に髪飾りを贈るなど、好意を寄せる相手でなくてもするものなのだろうか。
(私も義勇さんに簪貰ったことがあるし…でもあれは、私が蜜璃ちゃんから貰ったリボンを失くしたからで…)
簪にはそれなりの理由があり、義勇にも他意はなかった。
八重美の髪飾りにも、それなりの理由があったのだろうか。
そもそも簪は日常として手軽に使う物だが、八重美の髪飾りは明らかに装飾として特化したもの。
女性への贈り物としてならば特別にも思えてしまう。
「……」
一人で考えても答えなど出てこない。
それでもつい考え込んでしまえば、気持ちが暗い方へと向かってしまう。
いけないと、蛍はふるりと頸を横に振った。
自分は求めた相手に求められている。
それだけで十分ではないか。
「お待たせしました、兄上、姉う…え?」
「うん?」
ぱたぱたと草履が跳ねる音。
振り返れば、水を汲んだ桶を手に千寿郎が戻って来ていた。
その目はいち早く、蛍の耳の上に飾られた桔梗に気付く。
視線の先で悟った蛍は、うんと頷くと照れ臭そうに笑った。
「ああ、うん。杏寿郎が、くれたの。瑠火さんのお花を頂けるなんて恐縮しちゃうけど」
「母上の好きな花ですが、姉上にもとても似合ってると思います」
「そう、かな。ありがとう」
照れを見せて笑う蛍に、千寿郎から花束を貰った時のような綻ぶ表情は見えない。
頸を傾げながらも、千寿郎は蛍の頭を飾る青紫色の花を見つめた。
「桔梗の花は、気品や誠実の意味を持つそうなんです。姉上が身に付けていると、その佇まいにもなんだか目を惹かれてしまいますね」
「そ、そうかな…それは私より瑠火さんに似合ってると思うけど…というか桔梗って、花言葉が沢山あるんだね」
「千寿郎は植物に詳しいからな」
「あ。昨日の植物図鑑」
「うむ」