第21章 箱庭金魚✔
「桔梗の花言葉を知っているか?」
「? ううん」
「変わらぬ、永遠の愛だ」
蛍の髪の隙間に咲く、可憐な花。
それを愛でるように、杏寿郎の指の甲がそっと撫で上げる。
「人の命には限りがある。だからこそ尊く美しいものだと俺は思っている」
「……」
「だが君は鬼だ。この肌も、この髪も、声も、瞳も、命をも。朽ちることなく永遠に在り続けるもの。…それでも俺は、そんな君に恋をした。鬼の身体の中で燃やし続ける、君の人の心がとても美しいと思った」
己の概念すら覆す程に。
蛍の生き方に触れる度、知らなかった自分の心を、想いを、見つけるのだ。
「ならば俺の君への想いも、永遠の愛なのだと思う」
ふ、と顔を綻ばせて告げる杏寿郎に、蛍の頬がじわりと色付く。
「少し、気取り過ぎか」
「…ううん」
顔を俯かせて、握った花束で口元を隠す。
表情は隠れても、桔梗の花が飾られた耳は杏寿郎の目によく見えた。
赤く染まる、その感情は。
「ありがとう…嬉しい」
ぽそぽそと照れの残る声で、それでも嬉しそうに告げる。
顔にはまだ熱を残したまま、蛍は杏寿郎を見上げてはにかんだ。
「でも、やっぱり千くんのお花が一番嬉しいかな」
「うぬっ」
それでもしっかり釘を刺した蛍に、杏寿郎の想いの底は見えていた。
「だってこれは千くんが私の為に選んでくれたお花だから。杏寿郎の想いも凄く嬉しいけど、桔梗は瑠火さんの大事なお花だもん」
「いや…うむ…そうだが……俺だって蛍に花の一つや二つ…」
「少ししかない手持ちでもお祝いしようと思ってくれた、千くんの心がとても嬉しかったの。花の大きさや数じゃないの」
「む…それも、そうだが」
「ということで今日は何があろうと、私にとっての一番はこれです」
にっこりと笑って蛍が言い放てば、びしりと今度こそ杏寿郎の表情は固まった。
(その想いだけで、私には十分なんだけどね)
弟の行為にも、つい対抗心を燃やしてしまう。
そんな杏寿郎の幼心が愛らしいのだと思ったが、心に仕舞ったまま蛍は笑った。
今日一日花を持たせるべきは、自分より小さな体を張って守ってくれた、千寿郎なのだと。