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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第21章 箱庭金魚✔



 足場が掬われそうに揺れる。
 そんな感覚は、今までにも感じたことはある。

 その度に一人で地を踏みしめてきた。
 しかし慣れないブーツでは、上手く踏ん張れない。

 どちらかを選べなどと天秤に賭けられたら、答えは火を見るよりも明らかだ。
 自分では杏寿郎の跡継ぎは作れないし、献身的に煉獄家に住み着いて千寿郎達を支えることもできない。
 比べられる素質など元からないのだ。


「…蛍さん?」


 聞きたくはない。
 しかし両手は塞がっていて、耳を塞ぐこともできない。


「蛍さん」


 この場から逃げ出したい。
 しかしそんなことをしてしまえば、それこそ静子に覚悟のない者だと決定付けられてしまう。


(大丈夫。杏寿郎は、私だからって言ってくれた。私とだから、未来を歩みたいって。そう)


 自分もその想いに応えたいと思った。
 支えられるばかりではなく、支えたいと思った。
 手を引かれるばかりではなく、導いていきたいと思った。


 例え抱えるものが、何もなくとも。


(──何も、ない)


 自分は鬼だという意識が元々強く、人として並び立った時のことを考えたことはなかった。

 人として並んだ時。鬼である前に、既に杏寿郎との立ち位置は平等ではないのだ。

 自分には何もない。

 家柄や歴史など、肩書きしか見ない世界など馬鹿馬鹿しい。
 そう思えど、まかり通らない世界もある。
 それが此処だ。
 杏寿郎と八重美には同じ地を踏む資格があって、自分にはそれがない。

 ゆっくりと顔を上げる。
 すぐ近くにいるはずなのに、目の前の杏寿郎の背中が酷く遠く感じた。

 人であっても人でなくても、既に踏みしめる地は違うのだ。

 世界はいつも、


(浮世、だから)




 生まれながらに、不平等な世界。




「────ぁ、」


 手元を握る手から力が抜ける。
 取り落としそうになる日傘を、はしりと上から別の手が包み込むようにして握り込んだ。


「姉上っ!!」


 幼さの残る声が、響く。


「……ぇ?」


 すぐには反応できなかった。
 自分が呼ばれたのかと目を瞬けば、日傘を取られ手を握られた。

 視線が重なったのは、見慣れた金輪の双眸。
 しかし杏寿郎より幼い瞳が、真っ直ぐにこちらを見上げていた。

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