第21章 箱庭金魚✔
「この子ももう十八。何処に出しても恥ずかしくはない女性に育てました。勿論、鬼殺隊を支える役目も熟知しております」
母に褒められたことか、それとも別の意味か。気恥ずかしそうに八重美の顔が淡く色付く。
「どうでしょう。この娘を、杏寿郎さんの妻として娶っては」
その顔が、俯き加減に赤みを増した。
(──え)
嫌な予感がしない訳ではなかった。
しかし確信に変わる前に静子の口から出た"妻"という言葉に、蛍は息を呑んだ。
「この髪飾り、杏寿郎さんが前に選んでくれたものでしょう? 八重美さん、それ以来ずっと身に付けておりますのよ」
(髪飾りを…杏寿郎が、あげた?)
「皆まで言わずとも、聡明な杏寿郎さんならお分かりになるはず。八重美さんにとって、望んだ婚約にもなるのです。形だけのものではありません」
「ですが、俺は」
「ええ。早急な話だとも思います。それでも八重美さんを煉獄家に入れて下されば、千寿郎さん一人に槇寿郎さんのお世話を任せることもなくなります。御家が明るくなれば、槇寿郎さんも以前の御姿にお戻りになられるかもしれません」
静子のつらつらと並ぶ言葉が蛍の耳に入っては出ていく。
言葉は理解できたのに、内容をすぐには呑み込めなかった。
ぽぽぽ、と顔を赤くして俯く八重美に、目は釘付けとなったまま。
「それは…あり難いお話ですが、お受けはできません。心に決めた女性がいますので」
「まあ。そうですの? 青天白日(せいてんはくじつ)な杏寿郎さんの心を射止めるとは、とても魅力のある女性なのでしょうね」
静かだが通る声で断りを入れる杏寿郎に、八重美の大きな瞳が尚丸く見開いた。
反して静子は、驚いた顔をしながらも動揺はしていない。
「…ですが。杏寿郎さん」
深く俯く八重美の表情は、他者には伺えない。しかし母である静子だけは理解できた。
一心に目の前の男だけを慕ってきた娘の心が、わからないはずがない。
「これは煉獄家。ひいては未来の炎柱様を決定付ける縁談なのです」
ぴんと背筋を伸ばし前を見据えたまま、静子は炎柱にも負けぬ視線を貫いた。