第21章 箱庭金魚✔
その目が杏寿郎の持つ日傘に向けられていることに気付いて、はっとした。
「師範っ」
「む?」
「私が持ちます。積もる話があれば、どうぞお構いなく」
「しかし」
「大丈夫。です」
咄嗟に花束を腕に抱いたまま、指先で日傘を奪い取る。
師弟の身にしては近過ぎる距離を、一歩離れて蛍は頭を下げた。
静子のことはよくはわからないが、八重美の行動一つにも厳しい声を向けていた母だ。
その所作からも、礼儀や作法を重んじる者だとわかる。
継子の身でありながら図々しい、などと思われては堪らない。
自分だけならまだしも、それは師である杏寿郎の力量にも向いてしまうからだ。
静子から一歩身を退いて佇む八重美に習うように、蛍も身を退くと合流を果たした千寿郎の隣に並んだ。
「あの方々は、伊武家の…」
「千寿郎くんも知ってるの?」
「はい。時折外出先で、顔を合わせることもありましたから」
「…どんな人達か知ってる?」
「外見的なものなら…伊武家の奥方様は、厳格な方ですが鬼殺隊を支える役割に誇りを持っておられる方です。娘の八重美さんは、会う度私にも優しく接してくださる方で…」
「ふんふん」
こっそりひそひそと、千寿郎と小声で話し合う。
そんな相手だからこそ、杏寿郎も他村人相手のようにばさりと話を断ち切ることなく、丁寧に向き合っているのだろう。
「しかし時が流れる程に、ご立派になられますわね。すっかり炎柱様の御嫡男のお姿ですわ」
「ありがとうございます。まだ精進の足りぬ身ですが、少しでも父の姿に近付けているのならば嬉しいです」
「…槇寿郎さんは変わらず?」
「ええ。話をしようにも、中々意思疎通も上手くいかず。恥ずかしいばかりです」
「そうですか…瑠火さんが亡くなられてからもう十年ですが…炎柱様の心身を支えた立派な御方でしたものね…」
頬に付いた手の肘を支えながら、小さな溜息をつく。そんな静子の目にも、煉獄家の生き様は映っていた。
その目が、ふと色を変える。
「…きっかけを作られてはどうですか?」
「きっかけ、と申しますと」
「八重美さん」
「はい」
静子の呼びかけに、八重美が隣へと並んだ。