第21章 箱庭金魚✔
「彼女は俺の新しい継子です」
「まあ、鬼殺隊の御方でしたの。綺麗な装いをしておいでですから、どこの名家のお嬢様かと」
「い、いえ。そんな大層な者では…彩千代蛍と申します。初めまして」
「わたくしは伊武 静子(いぶ しずこ)と申します。これは一人娘の八重美。鬼殺隊の方々の活躍には日々深く感謝致しておりますわ」
「初めまして、八重美です」
「伊武家は、藤屋敷とも繋がりがある家系なんだ。我々も間接的に世話になっている」
「(そうなんだ…)そんな、こちらこそ。助力をありがとうございます」
「いいえ。和平の為に心血を注いでおられる鬼殺隊の方々に勤め上げることが、わたくし達の使命ですもの」
だから鬼殺隊のことも知っているのかと、蛍は納得して頷いた。
「しかしその佇まいを見ていると、師弟というより思い人のように見えますわね」
「お母様…っ」
「あら、八重美さんはそうは見えなくて?」
「そんなこと…っいえ、失礼しました」
何か言いたげな表情を作るものの、すぐに頭を下げて視線を逸らす。
謙虚な八重美と、母である静子は性格は似通らなかったようだ。
「彼女は…」
杏寿郎もまた八重美と同じだった。
いつもは気持ちの良いくらいにはっきりとした物言いをするものの、言葉を濁すように止める。
その目は、何事かと頸を傾げながら歩み寄る千寿郎を捉えていた。
(そっか。千寿郎くんがいるから)
やはり恋仲であることを告げない理由は、大切な弟にあったのだと蛍も気付いた。
鬼を継子にしただけでも戸惑いを隠しきれないでいたのだ。
つい先日知らされたばかりの千寿郎に、更には慕い合う仲だと告げるのは早急過ぎるだろう。
「私は炎柱の継子です。まだ経験も浅い身ですが…。本日は長期任務の合間に、師範のご実家にお立ち寄りしたまでで」
身形や仕草、話し方から、伊武家が良家なことはわかる。
当たり障りなく伝わっていますようにと恐る恐る言葉を選びながら、蛍は頭を下げた。
「そうですの。師弟の身で」
静子の目が、す、と細まる。
その目には蛍も憶えがあった。
身売り小屋の月房屋で、男達に向けられていた目と似ている。
頭から爪先まで、まるで品定めされているようだ。