第21章 箱庭金魚✔
伺うようにこちらを見ていたぱっちりとした大きな瞳が、杏寿郎だと確定するとぱっと輝く。
「お久しぶりです」
「八重美さん」
両手を口元に当てて喜んだ後、歩み寄り頭を下げてくる。
杏寿郎の顔見知りの村人の一人だろう。
黒く艷やかな髪をゆたりと大きめの三つ編みに結び、左胸に寝かせている。
身長は蛍よりやや高く、すらりと細く長い手足は蛍が抱えた菊の花のように白い。
小さな顔には小ぶりな鼻、形の良い唇、大きな瞳が並び、先程蛍が見た子供とは対照的に整った顔立ちをしていた。
福笑いであれば必ず勝ちを取れる程、隙のない造形美だ。
容姿もさることながら、蛍の目を惹いたのはその恰好だった。
ひざ丈の黄色の爽やかなワンピースは和服慣れした蛍には新鮮で、覗く細い両脚が眩くも見える。
ヒールの付いた白い小さな靴も、胸元の縦に並ぶ花模様の白いボタンも、三つ編みをまとめた髪に添えるように飾られたリボン型の髪飾りも、どれも品がよく一つ一つに目が向く。
洒落てはいるが気取ってはいない、美しい女性だった。
「お元気でしたか? 最近お見かけすることも少なかったので…お仕事、お忙しいのでしょうね」
「そうですね、最近は長期任務も多くて。しかし俺は変わらず元気です。八重美さんも、ご息災でしたか」
「はい。杏寿郎様が、そうして夜な夜な皆の平和の為に駆けて下さっているからです」
(あ。この女性(ひと)、鬼殺隊のことを知っている人だ)
具体的な言葉は出さずとも、杏寿郎の仕事を理解している話し方に蛍は多少なりとも驚いた。
杏寿郎の顔見知りで話す村人の中で、初めてはっきり鬼殺隊を知っていると確信できた人物と出会ったからだ。
「ですが杏寿郎様が五体満足で生きておられることが、私には一番の吉報です。ご無事でよかった」
「ありがとうございます」
鬼殺隊での命の危うさを知っているからこそ。眉を少しだけ下げて泣きそうにも思える顔で、心底安心したように微笑む。
八重美(やえみ)と杏寿郎が呼んだ女性は、美しい容姿に見合うような心の持ち主だった。