第21章 箱庭金魚✔
血の臭いの原因はすぐにわかった。
人成らざる風貌の子供が両手で握っているもの。
それは鳥の亡骸だった。
子供の掌に乗る程の小さな小鳥は、強い力に押し潰されたようにあらぬ方向に羽根が拉(ひしゃ)げ、胸は潰れている。
「ピ…ィ…」
ピクリとも動かなかった小さな嘴から、掠れるような鳴き声が漏れた。
亡骸だと思っていた小鳥は奇跡的に命を繋げていたようだが、それも尽きかけの灯火だ。
胸が潰れていては助かる見込みもない。
ぱっと見に流血の跡は見られないが、内出血は酷いのだろう。青黒く淀んだ小鳥の体は、瀕死に追いやられた蛍の姉と同じだった。
血に過敏な鬼の嗅覚は、その臭いを拾ったのだ。
(この子がやったの? というかこれは人間?)
あるいは鬼か。
謎は謎を呼び、目の前の出来事に頭が追い付かない。
ようやく思考が動き出せば、咄嗟に蛍は半歩下がった。
杏寿郎や他柱に叩き込まれた反動で、構えの姿勢を取る。
じっと微動だにしなかった子供の歪に張り付いた両目が、ぎょろりと蠢く。
「──蛍!」
突如背後から声が届いた。
驚き振り返った蛍の目に、路地裏の入口に立つ杏寿郎が見える。
「待たせてすまない。花を選んできた!」
白と黄の菊が交互にまとめられた大きな花束と、可憐な桔梗がまとめられた小ぶりな花束。
それらを掲げて笑顔を向ける杏寿郎に、はっとする。
「っ!」
血の臭いがしない。
もう一度目の前の子供へと目を向ければ、其処には何もいなかった。
廃れたごみ置き場。
寂しげに舞う塵埃。
その他には何もなかったように、子供の姿も小鳥も消え去っていたのだ。
(上に逃げた痕跡はない…っ)
この場は行き止まりだ。
逃げ遂せるとなれば、建物の壁を上り屋根伝いに行く道だけ。
しかしそんな逃げ方をすれば、杏寿郎の目に止まらないはずがない。
「どうした? 気分でも悪くなったのか」
沈黙を続ける蛍に、杏寿郎が路地裏へと踏み込んでくる。
その手は肩にかけている日輪刀の入った鞘袋には伸びていない。
鬼であれば、誰よりもその相手と対峙してきた杏寿郎が肌で理解するはず。