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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第21章 箱庭金魚✔


──────────

「…うん。やっぱり目立つな」


 色とりどりの花々が飾られた露店の前。
 あれこれと指差す千寿郎に、言葉を交わす杏寿郎。
 焔色の二つの頭を花屋から少し距離を取った場所で見ながら、蛍はうんと頷いた。

 快活な声がここまで届かないにしても、やはり目立つものは目立つ。
 そっくりな二人の顔立ちもそうだが、ふわふわと揺れる柔らかそうな焔色の頭が揃えば視覚に響く。

 休憩とばかりに日陰となる路地裏の入口で見守っていれば、はたと振り返る杏寿郎と目が合った。
 ぶんと大きく手を振ってくる杏寿郎に、つられて振り返せば隣の千寿郎とも目が合う。
 じっとこっちを見てくるものだからひらひらと手を振れば、遠慮がちに小さく振り返してくる。


「うん。可愛いな」


 やはり、と先程より深く頷く。
 男であるが故に恰好良さを求めていた千寿郎だったが、そう簡単には覆せないものだ。

 やがてまた花選びへと戻る二人に、蛍は日傘を下ろすと小さく畳み込んだ。

 目立つには目立つが、見ていてとても心地良い二人だ。
 墓参りの花選びは時間がかかるものなのか不明だが、此処で気長に待つのもいい。
 千寿郎ももっと兄との時間を過ごしていたいだろう。


(ゆっくり待つかな)


 仲睦まじい兄弟の姿なら、いつまででも拝んでいられる。










「──…っ、ぇ…」










 塵埃(じんあい)が舞うような、小さな小さな声だった。


「?」


 ただの物音や雑音ならそこまで気に止めなかった。
 人気の多い場所では、鬼の耳はより多くの音を拾ってしまう。
 一つ一つ気にしていてはキリがない。

 それでも気になったのは、それが雑音には聞こえなかったからだ。





「…ぅ…っ」





(また)


 聞こえた。
 微かに震わせるような、そんな声。

 振り返る。
 路地裏の奥は通り抜けとはなっておらず、建物により行き止まりとなっている。

 それでも聞こえた気がした。

 何かの、誰かの、鳴き声が。


「……」


 じっと目を凝らす。
 鬼の目なら暗がりなど関係ない。
 ゆらりと緋色を宿した瞳で目を凝らせば、細い路地裏の行き止まり。

 陽の光の届かない奥底に、何かを見た。

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