第21章 箱庭金魚✔
「…ああ。傍にいないと守れないからな」
緩めていた手を握る。
強いその手を握り返して、繋ぎ止めた。
「失念していた」
「いいよ、その時は私がこうしてまた手を引くから」
「頼もしいな」
「頼って下さいな」
今度は蛍が、何をも跳ね飛ばす顔でにぱりと笑う。
その笑みにつられるように、杏寿郎も頬を緩めた。
互いの手を握り合ったまま交わす二人の柔らかな空気。
に、呑まれるように照れた様子でそわそわと立つ少年が一人。
「ってこんな所で油売ってる暇じゃなかった! 早く瑠火さんの処に行かないと! ね、千寿郎くん!」
「えっ!? は、はいっ?」
「油を売ってる訳では」
「ないにしても杏寿郎、あんな陰険な目をした人達にいつまでも千寿郎くんを曝していられる?」
「むっ、では先を急ごう! 花屋はその角を曲がってすぐだ!」
「うん」
師弟にしては危うい会話を先程からしていたように思う。
任務という役目を剥がしてありのままの杏寿郎と向き合っているからこそ、仕方がないのかもしれない。
それでも千寿郎の前で無防備過ぎたと、慌てて切り替えれば同じく早々と会話を切り上げた杏寿郎に、蛍は内心ほっとした。
千寿郎は自分達のことを師弟関係としか思っていないはずだ。
恋仲の空気を出し過ぎるのは如何なものか。
(私との関係を槇寿郎さんに事前に話していなかったってことは、千寿郎くんにも話していないと思うし。危ない危ない…会話に気を付けないと)
先程から杏寿郎が村人達への蛍の紹介を曖昧にしていたのも、恐らくそれが理由だろうと一人納得しつつ。同時に疑問も抱いた。
(あれ。でも、いつ話すんだろう…槇寿郎さんの許可がしっかりと下りた後かな?)
思い立てば即行動、な杏寿郎にしては珍しい。
そう思うものの、順序立てて考えればそう不思議でもない。
「蛍、悪いが花屋は俺と千寿郎で見てくる。万が一藤の花があるといけないからな」
「あ、はい。そこはよろしくお願いします」
振り返る杏寿郎の提案にこくりと頷くと、一先ずその疑問は頭から離すことにした。
兎にも角にも、墓参りの準備が先だ。