第21章 箱庭金魚✔
霞色の落ち着いた着物の上に、藍染めの強い褐返(かちかえし)の羽織を着た杏寿郎は、髪色とは正反対の暗めの衣服によりいつも以上に大人びて見える。
その上で鮮やかな焔色の髪を靡かせ、威風堂々とした立ち振る舞いを見せるのだ。
(若旦那の貫禄って、なんとなくわかるなぁ…)
ただ歩いているだけで強い存在感に目を惹く。
そして凛々しい顔つきながら、つい目を止めてしまうような一瞬の表情で柔く笑うのだ。
目を奪われるとは、このことか。
初詣で義勇の美丈夫っぷりに釘付けだった女性達の空気とは、また少し違う。
この村の人々は杏寿郎のことを知っているからだろう。
向けられる目には、好意もさることながら友愛に満ちた色が宿っているようにも見えた。
(…全部が全部、って訳でもなさそうだけど)
しかし良くも悪くも杏寿郎は目立つのだ。
そこには決して好意だけの視線が向いている訳ではない。
中には距離を置いて訝しげに見る目もあれば、畏怖するように見る目もある。
他人の視線には、よく曝されてきた身だからわかる。
日本人離れした容姿もそうだろうが、政府非公認の刀を所持した職務に就いているのだ。
無知な者には異端にも見えるのだろう。
「気になるか?」
「え?」
驚いた。
日傘の下で人間観察を行っていた蛍の思考を、まるで読み取るかのように。声をかけてきた杏寿郎の視線は、進む前方を向いたままだ。
「ああいう目は俺も千寿郎も昔から慣れたものだ。こういう見目姿であるしな」
「…気付いてたんだ」
「わざわざ気にする必要はない。特に思うことも今更ない。しかし蛍が気になるなら」
「っならないよ」
繋いでいた手が微かに緩む。
離れそうにもなるそれを阻むように、蛍は強く握り返した。
「誰ともわからない人の目より、杏寿郎や千寿郎くんの目に私は映っていたい。映っていたら、それでいい。だから気にならないよ」
感情的に込めた力は鬼故か、思いの外力んだ。
その手に驚いた杏寿郎が振り返れば、擬態した蛍の人間の瞳と重なる。
「守って、くれるんでしょう?」
だから離さないで、と。
声なき声を告げる蛍の瞳は、鮮やかな緋色ではない。
なのに惹き付けられた。