第21章 箱庭金魚✔
「色恋の"い"の字も感じさせなかった、あの若旦那がねぇ」
「褒められてるのかそうでないのか、よくわからないが。彼女は仕事柄、密に連絡を取り合う仲だ!」
「ほう。その仕事仲間と手を引いて出歩くとは。色々と密そうなご関係で」
「はははは! では否定はしないでおこう!」
「ほほう。益々気にな」
「しかし母の墓参りに行く途中なので! この話はこれまで!」
「あいやちょっと若」
「では!!」
声量と勢いでその場の会話を両断し、笑いながら去っていく。
杏寿郎のその手に引かれるまま、蛍はほっと息をついた。
(よかった。今回は質問攻めにされなくて)
そう、問題はこれだ。
親しげに煉獄兄弟と話をしていく村人達は、必ず蛍の存在にも目を止めた。
それだけならまだしも、必ずと言っていい程興味を示してくるのだ。
杏寿郎との関係を。
(仕方ないと言えば仕方ないのかも…)
未だ引かれ続けている手を見れば、納得もしてしまう。
ただの仕事仲間なら、こうして手を繋いで墓参りになど行かないだろう。
先程の男性はすぐに躱せたが、その前の女性は怒涛の質問攻めをしてきた。
自分にまで疑問を突き付けられあたふたしていたところを、杏寿郎がその闊達さで抜け出したのだ。
「蛍さんのこと、皆さん興味津々ですね…」
「甘露寺の時もそうだった。彼女は頭髪も目立つからな!」
「そういえばそうでした」
「そうなんだ」
「ある意味、名物でしたよ。兄上と蜜璃さんが外食すれば、一度はどのお店も必ず食べ倒していましたから」
「食べ倒すとは」
「お店の食材を使い切るということですね」
「うわあ」
「駒澤村は美味い飯屋が多いからな!」
「うわあ(凄く良い笑顔)」
村人との多方面からの絡みはあれど、杏寿郎本人は気にしていない。
寧ろ割増の笑顔で、にぱりと眩く笑う。
「蛍。この村の人々は活気ある者達も多いが、根は優しい人ばかりだ。あまり気を悪くしないでくれ」
「気は悪くしてないよ。うん。大丈夫」
その表情が落ち着いたかと思えば、労うように優しく声をかけられた。
悪い気はしていない。
寧ろ並んでいると親密な間柄に見えるのかと、嬉しくなるばかりだ。