第21章 箱庭金魚✔
煉獄家の周りは幾つもの家々が並ぶ場所だったが、少し足を延ばせばすぐに賑やかな商店街へと出た。
昼間となれば夜とは変わり、人が賑わう。
あちこちで値踏みをする商人もいれば、井戸端会議を行う主婦達、チャンバラごっこをしながら駆けていく子供達もいる。
観光地であった京都とは一味違った賑わいに、蛍は日傘の下で目を輝かせた。
帝都とは離れているが、大きな行事も行われると杏寿郎が言っていただけはある村だ。
「おッ杏ちゃんじゃねぇかい! 帰ってたんなら声をかけてくれよ!」
「それはすまなかった、葵屋の主人! ご息災であったか!」
「あらあら。やっぱり杏寿郎君の笑顔を見ていると、こっちまで元気になれるわぁ。よかったわねぇ千寿郎君」
「こちらこそ! いつも弟に目をかけて下さり感謝しています!」
「お、煉獄さんちの若旦那! 益々貫禄ついたなぁ」
「はははは! そう見えるのならばありがたいが!」
その中で一層賑わっているのは、他でもないこの手を握った人物だった。
髪色や印象深い顔立ちから目立つ容姿だとは思っていたが、そこにこの快活な性格が加わるとここまで注目を集めるのか。
(杏寿郎って老若男女問わず"人たらし"だもんなぁ…)
感心気味に、内心溜息をつく。
余りにもぴったり過ぎるその命名者は、元忍者である音柱だ。
『ま、煉獄は生粋の人たらしだからよ。あいつの情人になるなら覚悟しておけよ』
『待って言い方。情人て』
『そっちかよ反応すんの』
何をどう覚悟するのか、追う身ではなく追われる身で男と駆け引きをしてきた蛍には、すぐにはぴんとこなかった。
しかしつき合いが長くなればなる程、深くなればなる程身に染みる。
柱の間でも薄々感じていたことだったが、男女問わず杏寿郎は人を惹き付けるのだ。
(まぁでも良いことだと思うけどね)
人に嫌われるより、好かれることの方が難しい。
そう思うからこそ、自然と人を惹き付ける杏寿郎の人格は天性のものだと思えるし、大事にすべきだとも思う。
天元が忠告してきたような心配は生憎とない。
ないのだが。
「で、その隣のお嬢さんは誰だい? 若旦那、とうとう身を固めるおつもりで?」
(またきた!)
問題はこれなのだ。