第21章 箱庭金魚✔
「蛍の見解では、今日は一日曇りだそうだな」
「…多分」
「あの時透直伝の天候の読みだ。ならば安心だろう」
一瞬の躊躇を読み取った杏寿郎が、手を差し出したまま尚も語りかける。
「それでも不安なら、俺が君の盾となる」
聞き覚えのある言葉だった。
『いざという時は俺が盾となって守ろう』
初めて岩柱である悲鳴嶼行冥の屋敷へと、杏寿郎と二人で向かった日のこと。
初めて鬼殺隊本部で、番傘を差して日中を歩いた日のことだ。
曇り空であっても太陽に怯える蛍の手を、やんわりと握って呼びかけてきた。
あの時の、杏寿郎の温かくも強い言葉を思い出す。
率直に強く響く言葉に、あの時はすぐに反応ができなかった。
慣れない優しさに、簡単には直視できなくて。
今は違う。
「…うん、」
一歩、踏み出す。
片手を伸ばして。
率直さの裏側には、感情への繊細な配慮がある。
強さの裏側には、泣きたくなる程の優しさがある。
それを知っているから。
「守って、くれる?」
蛍の小さな一歩では辿り着けない距離。
それを補うように大きく踏み出した杏寿郎が、包み込むように手を握った。
「ああ。必ずだ!」
不安など簡単に吹き飛ばしてしまう程、躍然たる笑顔で。