第21章 箱庭金魚✔
「兄上の、血を?」
「あ、いや。いや、うん。ええと」
「そうだ!」
「杏寿郎!?」
「何を驚いている、本当のことだろう? 蛍は人を喰らわない鬼だが、何も口にせず生きてもいけない。人が食事を取るのと同じ道理。だから飢餓が出れば、傍にいる柱が血を与えることが規則となっている。故に与えた!」
驚きの表情を見せる千寿郎に、蛍が弁解の余地を探そうとすれば、あっさりはっきり笑顔で杏寿郎がそれらを破壊した。
はきはきと通る声で現実を告げる杏寿郎に、どんどん千寿郎の顔が青くなっていく。
「あ、与えるって、どれくらい…体は大丈夫なんですかっ?」
「うむ! 何も心配することはない。先程の蛍程、血を流してはいないし。胡蝶の下で定期的に行う健康診断の血液採取のようなものだ。慣れた!」
「慣れ…」
「杏寿郎、杏寿郎っもういいから! ごめんね千寿郎くんっ」
爽快に笑う杏寿郎は柱という職業柄、血にも怪我にも慣れている。
しかし千寿郎は違う。
それも相手が兄として慕っている家族であるならば、心配もして当然だ。
その気持ちを汲むように、蛍は慌てて二人の兄弟の間に割り込んだ。
「血を飲むって言っても、貰う時は注射器みたいな専用の道具を使ってるから、怪我はさせていないよ。勿論、貰う血も少量。頻度だって週に一度程度だし。今まで杏寿郎の体調に支障をきたしたことはないから」
「…痛み、は…」
「それは…」
「ない! 注射針など蚊に刺されるようなものだ! 千寿郎の先程の剣捌きの方が余程腕にびりりときた!」
「あ、兄上…っ」
わしゃわしゃと、杏寿郎の手が豪快に千寿郎の頭を掻き撫でる。
「腕を上げたな!」と笑い飛ばせば、不安げな表情を残すものの千寿郎の頬は赤く色付いた。
「だから大丈夫だ。蛍も、最初は人の血を飲むことに強い抵抗を示していた。喜んでしている訳じゃないんだ。責めるようなことはしないでくれ」
「ぁ…すみません、蛍さんっ」
「ううん。それが当然の反応だから。千寿郎くんは悪くないよ」