第21章 箱庭金魚✔
「蛍の身体に多少なりとも影響が出てしまうのは、考えものだがやむを得ないところもある。その能力(ちから)を我がものにすることは、蛍にとって決して悪いことでもないと思う。蛍はどうだ?」
「うん。私も私の体のことだから、知りたい」
「うむ。ならば今後は些細なことでも報告してくれ。俺も君の師として力になりたい。…それに先程は、流石に血の気が退いたからな」
「…杏寿郎…」
眉尻を下げて微かに口角を緩めて笑う杏寿郎に、ようやく感情らしい表情が浮かぶ。
わしゃりと、大きな手が一度だけ蛍の頭を撫でる。
その掌から伝わる感情に、蛍もまた無言で頷いた。
「それで、体調にもう異変はないか?」
「うん、大丈夫。もうこの通、り?」
「むっ」
軽い返事一つで蛍が立ち上がれば、勢いが余ったのか足場がもたついた。
咄嗟に腕を掴んで支えた杏寿郎の目が、厳しく変わる。
「大丈夫ではなさそうだな。血を流し過ぎた所為か」
「えっと、さっきの名残り、みたいなもの、かな…うん。でも、ほら。もう立てる。大丈夫」
鬼に貧血などありはしない。と言いたいところだが、実際のところどうなのかはわからない。
再生の体を持っていても、怪我を負う時は負うし血が流れる時は流れる。
それでも介護者のように扱われる程ではない。
今度こそ意識してしっかりと足場を固定して立つ蛍に、暫く無言を貫いた後ゆっくりと杏寿郎も手を放した。
「血が必要なら、与えるが」
「ううん。いい。昨日も貰ったし」
「え?」
「む?」
「あ」
何気ない二人の会話のやり取りに、突如舞い込んだ不安げな声。
頸を捻る杏寿郎と、しまったと口を開けた蛍が向けた視線の先。
「ぁ…そういえば、蛍さんは鬼だから、定期的に血を飲まないとって…」
下がり眉を更に下げた、千寿郎が其処にいた。