第21章 箱庭金魚✔
己の術ではあるが、蛍自身その能力は未知数だった。
禰豆子はどのように、自身の血鬼術の能力を感じ取ったのだろうか。
華響はどのように、血鬼術を我が物にしていたのだろうか。
当然のように使いこなしていた彼女達とは違い、自分にはその感覚もいまいちわからない。
意思通りに操れることが大半だが、意識下になくとも発動する時もあるのだ。
節分時の影沼のように。
「兄上っ蛍さんっ、布を持ってきました!」
「ありがとう千寿郎」
そこへぱたぱたと小さな足を駆けて走ってくる千寿郎に、皆の目が向く。
蛍の顔を汚していた血は水で綺麗に洗い流され、千寿郎の用意したタオルで拭われる。
その頃には出血も落ち着いていた。
「なんで蛍さんは台所にいたんですか?」
「二人に、冷たい飲み物でも用意しようかなって…」
「そう、なんですか…」
「ごめんね。稽古の中断をさせてしまって」
「それは問題ない、一通りは終えていた。それより何故、血鬼術を使おうと?」
「ええと…使う気はなくて、」
「今回、蛍ノ血鬼術ハ一枚ノ写真ニ反応シテ変貌シテイマシタ」
「写真?」
台所の椅子に座らされ、心配そうに伺ってくる千寿郎と、柱としての顔を見せる杏寿郎の視線を受ける。
顔にタオルを当てたまま口籠る蛍の肩に、ふわりと要が舞い下りた。
その口には、蛍が血で汚すまいと避難させていた写真が咥えられている。
「それは…昔の家族写真だな。何故此処に」
「あっ」
「千寿郎?」
「いえ…あの。それは…」
「コノ棚ニアッタ献立表ニ挟マッテイマシタ。偶々蛍ガ見ツケタモノデス」
煉獄家の台所事情は全て千寿郎が担っていると言っても過言ではない。
要から受け取った写真を手に杏寿郎の双眸がじっと弟を捉えれば、言い難そうに千寿郎は両手を握り合わせた。