第21章 箱庭金魚✔
驚かせないようにと恐る恐る顔を寄せる。
そんな兄の姿に、弟のぱちりと開いた瞳が向く。
『ぁぅ、』
『!』
『あら』
『お』
紅葉のような小さな手がふらふらと揺れたかと思えば、ぺちりと目の前の兄の顔に触れる。
『せ、千…?』
『ふふ。どうやら千寿郎も兄が大好きなようですよ』
『そうだなぁ。俺達に会いに生まれて来てくれたんだもんなぁ』
ふくふくと、父と母の優しい笑い声が重なり合う。
この場で誰よりも儚く小さな、新しい命。
じっとその姿を見つめていた少年は、徐に小さな紅葉を包むように握り返した。
『父上、』
『ん?』
『母上、』
『なんでしょう』
『おれ、立派な兄になります。強くなって』
幼いながらも、それは命を背負う覚悟をした声だった。
『この手で弟を守ると誓います!!』
凛と響く決意の声に、父と母の目が驚き止まる。
澄みきるような静寂だった。
『ぅう、ふえっ』
その空気を一変させたのは、同じく目を丸くしていた弟だ。
驚き、そしてわなわなと震え出す姿に、途端に少年の顔が決意の表情を崩す。
『せ、千寿郎っ』
『…ふふ。どうやら立派な兄になるには、まだ時間が必要なようですね』
『そうだな…ゆっくり歩んで行けばいい。二人で共に、成長してくれれば』
おろおろと小さな紅葉の手を握り返す。それもまた、刀を握るにはまだまだ幼い手なのだ。
二人の愛の形を見つめる父と母の瞳は慈愛に包まれていて、自然と零れ落ちる笑い声は心地良く耳に響いた。
『は、母上…っ千寿郎が』
『ええ。まずは泣き止ませるところからですね。さあ、槇寿郎さん。お手本を見せてあげて下さい』
『お、俺かっ?』
『杏寿郎が兄となったなら、槇寿郎さんも二人の子の父親なのですよ』
『う…うむ! よし、任せろっ』
真面目な顔で姿勢を正し、写真に収まっていた姿とは程遠いような姿で、恐る恐る赤子を抱いて体を揺らす父。
その傍らで両手で拳を握り、眩い視線を送る息子。
そんな二人を優しく微笑み見守る母。
愛に満ち満ちた家族の姿は、こちらまで心を癒し温めてくれる。
いつまでも、ずっと見ていたいと思った。
ずっと。
ずっと、