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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第21章 箱庭金魚✔



 引き締めた表情だが、蛍の知る現在の槇寿郎のような、眉間に深い皺はない。


(槇寿郎さん…瑠火さんが生きていた頃は情熱的で優しかったって、杏寿郎言ってたよね…)


 立派な紋付羽織袴(もんつきはおりはかま)を着こなして映っているところ、形式張ったものなのだろう。
 だからこそ表情も硬く見えるが、そこに冷たさはない。

 そして、そんな父と母の間に立つ一人の少年。
 齢六、七程だろうか。
 幼い顔立ちながらもきりりと上がる太い眉に、大きく丸い金輪の双眸。
 焔色の短髪はふわふわでどことなく獅子を思い起こさせる。


(小さな杏寿郎だ)


 背筋をぴんと伸ばし母の傍らに立つ袴姿の少年。
 想い人のかつての愛らしい姿に、蛍は目を釘付けた。


「これ、家族写真かな…素敵」


 同じに写真を覗く要に語りかけながら、蛍はそう、と古びた写真の表を撫でた。
 幼い頃から快活で、父のような柱になるのだと憧れ、弟の面倒もよく見ていた。
 話に聞いていただけだが、そんな杏寿郎は確かにいたのだと。


(見てみたかったなぁ)


 その手は、千寿郎のように肉刺を作る努力家の手をしていたのだろうか。
 その声は、今の彼と同じようにどこまでも通る響きをしていたのだろうか。

 その目は、髪は、意志は。
 どんな姿勢を持ち、地に足を着け立っていたのだろうか。

 柔らかそうな幼く丸い頬の輪郭を、中指の腹でなぞる。
 もう知ることはできない過去の杏寿郎に、想いを馳せて。










『──…ぇ…』










 最初は、蚊の鳴くような些細なものだった。








『──…ぅぇ…』








 何処かで誰かの声がする。


(誰?)


 周りを見ても、傍には二羽の鎹鴉しかいない。

 しかし確かに聴こえたのだ。






『──ちちうえッ』






 それは知らない少年の声だった。

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