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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第21章 箱庭金魚✔



 肩に停まるなど珍しいことではあったが、如何せん膨らんだ羽毛が視界に入り込んで邪魔をする。


「まさか政宗も付いてくるの? 要が一緒だから必要な」

「ガァッ」

「うわ耳元で鳴かないで煩いっ」

「政宗ハ蛍ノ鎹鴉ダ。共二行ク」

「……」

(お。あの政宗が要には歯向かわない…)


 当然のように要が告げれば、むすりと不服そうな顔はしているものの政宗は噛み付かなかった。
 生意気な態度が常備である政宗にしては珍しい。

 相手は長い間、炎柱の鎹鴉を担っている者。
 鴉の中にも上下関係はあるのかと、蛍はしげしげと両肩の二羽を見比べた。


(そういえば京都の任務に比べたら、随分長いこと姿を見せるようになったし…要と一緒にいるところも偶に見かけるし。仲良くしているのかな?)


 恐らく鴉にしかわからない関係性がそこにはあるのだろう。
 下手に突っ込めば政宗のこと、逃げ出してしまう可能性もある。

 ここは無暗に突っ込むまいと、両肩の重みをそのままに蛍は台所へと足を向けた。










「あ」


 大きな竈がある立派な台所へと入れば、一番に目に飛び込んできたのは流し台の隣に置かれていた空(から)の御膳台だった。
 自分で運んだからこそわかる、槇寿郎にと蛍が届けた朝食だ。


(槇寿郎さん…全部食べてくれてる)


 朝食には手を付けないことも多いと聞いていたからこそ、綺麗に平らげられている空の器に蛍は口元を緩ませた。

 渋る千寿郎に頼み込んで、一人で槇寿郎の下へと朝食を運んだ。
 千寿郎には部屋の前に置けばいいと言われた為、室内には足を踏み入れていない。
 朝の挨拶と共に昨夜の礼を襖越しに告げれば、素っ気ない相槌一つで済まされた。

 一夜酒を交わしただけで簡単に縮まる距離ではないと思ってはいたが、やはり残念には感じてしまう。
 だからこそ、その何気ない光景が嬉しかった。


「んふふ」

「ドウシタ?」

「ううん。ちょっとね、嬉しくって」

「笑イ方。気持チ悪イ」

「政宗は黙ってて」


 顔を覗き込む要には笑顔を、ドン引く政宗には更に笑顔を向けると、それはさておきと蛍は広い台所を見渡した。

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