第21章 箱庭金魚✔
カン、カカン、カン、カッ!
木目の刀と刀が擦れぶつかり合う。
小さな体をフルに使い全身で突っ込んでくる千寿郎に、受け身の体制で次々と杏寿郎が打撃をいなしていく。
「いいぞ! もっと打ち込んで来い!」
「っはぁああ!」
「もっとだ! 脇が甘い! 踏ん張りが効いてないぞ!」
目が冴えるような小気味良い音を立てる、木刀同士の打ち込み稽古。
共に鮮やかな焔色の髪を靡かせる兄と弟の姿を、蛍は縁側に座って見学していた。
土鍋いっぱいの米と山程のおかずを、うまいうまいと喜び勇んに十五分で食べきった杏寿郎は腹ごなしにと木刀を手に庭へ出た。
ぜひ稽古を付けて欲しいと申し出たのは千寿郎だ。
(千寿郎くん、幼い割に型がしっかりしてるなぁ)
日輪刀の色は変わらなかったが、それでも少年が日々諦めず鍛錬に励んでいた結果は蛍にも見えていた。
相手が杏寿郎の為に簡単にいなされているように見えるが、その年頃にしては見事な剣捌きだ。
「やっぱり剣士になりたいんだろうな…」
何度跳ね返されようとも、諦めることなく杏寿郎へと挑む千寿郎のその姿こそが物語っている。
煉獄家としての使命もあるだろうが、何より兄に追い付こうと必死に食らい付いている。
(…玄弥くんみたいだ)
その姿は同じ弟という立場の、剣士になれない鬼殺隊士である青年を思い起こさせた。
「千寿郎ハ忍耐ガ人一倍強イ。努力モ人一倍シテイル」
「要」
番傘を差したまま呟く蛍の声を拾ったのは、隣で羽根を畳み休んでいた鎹鴉の要だった。
任務を告げに来る時とは違い静かな声で投げかける姿は、それが本来の性格なのだろうと思わせる。
「それなら要もね」
「?」
「一夜漬けの任務、お疲れ様でした」
こてんと頸を傾げる愛らしい姿に表情を緩めて、蛍は労いの言葉をかけた。
昨夜隠の情報班へと杏寿郎が発たせた要が帰ってきたのは、今朝方だった。
一度も休まず飛び続けていたのだろう、帰り着いた後は常に二本の鉤爪で移動し、立派な羽根は広げていない。