第21章 箱庭金魚✔
二人が恋仲なのだと知った上で改めて見れば、兄の愛情を含んだ気配は、瞳や声色や仕草の一つにも混じっていた。
(…やっぱり蜜璃さんの時とは違うや)
そんな二人の空気がなんともこそばゆくて。
つい目を細めてしまう。
兄が生涯添い遂げる相手を見つけられたことは、心から喜ばしいと思えた。純粋に嬉しかった。
ただいつも手を伸ばせば当然のように腕を広げて迎えてくれた存在が、離れていくような気もして。
ほんの小さな寂しさを覚えたのも事実。
「一心同体なら私と千寿郎くんもそうだよ。さっきだって息ぴったりに笑えたんだから。ね、千寿郎くん」
「え?」
「仲良きことは良いことだ。だが千寿郎は婿にはやらんぞ!」
「また言ってる…杏寿郎、もう兄上じゃなくて千寿郎くんのお父さんに見えるよ…」
「兄は兄だ! 父上は父上だけだ! だろう千寿郎!」
「え、えっと」
傍観するよう見ていたら、あれよあれよと二人に名を呼ばれて空気に巻き込まれてしまう。
柔軟に突っ込みを交えて絡む蛍と、突拍子もないことを豪快に張り上げる杏寿郎の周りは、忙しない程に賑やかだ。
「あんまり勢いに任せて丸め込んだら駄目だよ。千寿郎くんの意見も尊重しないと」
「ふむ? 千寿郎に三割増しの愛嬌とやらを勢いに任せてせがもうとしていたのは誰だったか?」
「き…っ聞いてたの?」
「聞こえただけだ!」
「それを人は覗き見と言うんですっ」
いつまでもその話題で盛り上がる二人に、つい置いていかれてしまう。
千寿郎が、と口にする二人の姿には恥ずかしくも感じたが、不思議と心地も良くて。
くすりと、つい口元が綻んだ。
「兄上。蛍さん。朝餉が冷めてしまいますよ」
「あ。」
「む。」
そこには先程まで名残りを残していた寂しさなど、つけ入る隙もなかったからだ。
「さあ、ご飯にしましょうっ」