第21章 箱庭金魚✔
「…やっぱり唐突だよね」
「む。」
ほのかに恥じらいの目を向けつつ告げる蛍の言葉は真っ当で、思わず杏寿郎も口を閉じる。
互いに額が触れ合いそうな距離で視線を交えたまま、ぱちりと瞬いて。
ふ、と同時に吐息が漏れた。
「ふ、ははっ、確かにそうだ。これは返す言葉がない」
「でしょ」
しとりと髪は肌に貼り付き、睫毛の先から雫を落とす。
体は冷え切っているというのに、胸の内は温かい。
顔を見合わせたまま、二人して鈴を転がし笑い合った。
「初めての時もそうだったよね。杏寿郎、なんにも言わずに急に顔を近付けるから」
「そうだったな。だがあれは蛍の寝顔があまりに目を惹いて」
「寝顔?」
しかしそんな淡い空気も、ぴたりと止まる。
ぴたりと半端に止めた、杏寿郎の言葉と共に。
「あの時は二人でお花畑にいたでしょ? 菖蒲と白詰草の」
「……そうだったか?」
「そうだったよ。というかそれしか私の記憶にはないよ。何、寝顔って」
「……」
「一体いつの話してるの。もしかして私の知らない間に口付け」
「さて湯浴みをせねばな!!」
「うわぁっ!?」
がばりと杏寿郎が反動もつけずに立ち上がれば、膝に跨っていた蛍の体がぐらりと揺れる。
滑り落ちる前に、太い両腕が軽々とその体を抱き上げた。
「ま、ちょ、杏じゅっ」
「なに、裏口から入れば廊下を汚さず浴室に直行できる! 問題ない!」
「そういう話じゃ…っ寝顔の」
「お互いあられもない姿と化しているからな! 父上にでも見つかったら大変だ!」
「だからそういう話じゃ…っあられもない!」
「だろう!!」
杏寿郎に姫抱きされたまま、あれよあれよと運ばれる。
勢いに呑まれつつも蛍が反抗しようとすれば、成程確かに言う通り。全身ずぶ濡れの為に薄い浴衣は肌を隠す役割をすっかり放棄していた。
肌に貼り付き透き通るそれは、杏寿郎の逞しい筋肉も、蛍の柔らかな曲線も、どこも隠しきれていない。